「ダム建設の時代は終わった」by米国内務省開拓局長官ウィリアム・ピアーズ
            嶋津 暉之

国交省等の河川管理者は計画中・工事中のダムを何としてもつくろうとしていますが、全く新しくダム計画を策定するという時代ではなくなっています。

そのような時代に各地で推進されようとしているダム工事の仕事は既設ダムの改造です。
このダム改造を取り上げた日経コンストラクションの記事を参考までにお送りします。

なお、この記事の最初で、昨年9月の鬼怒川水害で、上流4ダムが役に立ったという話が紹介されていますが、これは一方的な見方です。

鬼怒川水害の真相については八ッ場あしたの会のHPの二つの記事をお読みください。

◇鬼怒川水害の原因に関する嶋津暉之さんの講演
https://is.gd/fSTpue
 
◇鬼怒川水害における上流4ダムの治水効果
https://is.gd/9Ymk8E

◆豪雨で脚光浴びるダム改造 第11回:ダム再開発
(日経コンストラクション2016/06/21)
http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/atcl/cntcolumn/15/111900002/051300017/

 ダムは「税金の無駄遣い」、「自然破壊」といったレッテルを貼られがちのインフラの代表格と言えるでしょう。構造物を造る箇所は、自然豊かな山間部になりますし、事業期間が長期にわたるので、当初の建設計画と実際に完成に至った時とでは、事業費や利水ニーズなどが大きく変わることが多いからです。

 しかし、ダムの重要性が見直される機運が出始めています。豪雨が多発する半面、降雨が少ない時期が目立ち始めるなど、極端な気象が数多く襲い掛かっているからです。気象庁が示す観測結果では、大雨の観測回数は長期的に上昇トレンドを描いており、今後の予想でも、大雨の発生頻度は増すと見込んでいます。

気象庁が21世紀末の気候を予測した「地球温暖化予測情報 第8巻(2013年)」の情報に基づく。大雨の発生頻度が増加する地点が全国に広がるという予測結果となっている
ダムがなければ浸水面積が1.3倍に

 関東・東北豪雨の際、鬼怒川上流に位置する湯西川ダム、五十里ダム、川俣ダム、川治ダムでは、合計約1億m3の水をため込みました。国交省では、このダムの貯水効果によって、決壊地点での水位を約30cm分抑えられたと計算しています。

 この豪雨によって茨城県常総市域であふれた水の量は、約3400万m3とみられていますが、ダムがなければその数字は約2倍の6200万m3ほどに達したと算定されています。浸水面積については、約1.3倍の50km2ほどに拡大すると推定されました。

2015年に発生した関東・東北豪雨で鬼怒川が決壊した水害で、ダムの有無による被害の程度の違いを試算した結果。浸水エリアを示す(資料:国土交通省関東地方整備局)

 こうした豪雨の際にダムの効果を具体的に示す取り組みは、数年ほど前から国交省が積極的に実施しています。2013年の台風18号が近畿地方にもたらした豪雨で日吉ダムが果たした役割を算定した際には、経済的な損失を含めた数字を示しています。

 この豪雨では、観光地として有名な京都・嵐山周辺で浸水被害が生じました。それでも、国交省は日吉ダムの運用によって桂川の久我橋付近での堤防決壊リスクを抑えたり、浸水被害が出た渡月橋付近での水位を50cmほど低減できたりしたとみています。
 国交省は、ダムによる被害抑止の金銭的効果が約1兆2000億円に上ったと見込んでいます。日吉ダムの事業費は約1836億円だったので、額面だけを比べれば相当の効果を発揮したといえるでしょう。

2013年に近畿地方を襲った豪雨がもたらした桂川周辺の浸水被害について、1998年に運用を開始した日吉ダムの効果を試算した結果。渡月橋周辺では、ダムの存在によって浸水被害を軽減できたと推定された。国土交通省の資料をもとに日経コンストラクションが作成

 もちろん、効果の算出には様々な仮定も含まれるので、額面通りの効果があったか否かを簡単に評価することはできません。それでも、ダムによって洪水被害が軽減でき、地域の生活や経済活動を守っているという部分は間違いないでしょう。

 豪雨による被害は、ダムだけでは防げません。それでも、ダムが川の流域の安全性を高めている点は、これまで以上に無視できなくなっています。

 このところ、国土交通省はダムの効用を広く伝えようという姿勢を強く打ち出しています。近年の豪雨では、ダムの活用による治水効果を具体的な数字を交えて積極的に公表。その重要性をアピールしています。

 例えば、2015年9月に発生した関東・東北豪雨において、鬼怒川上流に位置する四つのダムの効果を算定し、ダムがなかった場合との被害状況の違いを数字で示した点はその一例です。

時間や費用を改造で抑える

 豪雨などのリスクが高まっているからといって、国内で新たなダムを次々に建設していくことは、費用の面でも時間の面でも現実的ではありません。

 そこで脚光を浴びているのが、既存のダムを改良するという手法です。経年によるインフラの老朽化が社会的な関心を集めるなか、既存施設をリニューアルして将来も役立てていこうという手法は、社会的理解の獲得という点でも有効です。

 国が管理するダムを中心に、現在、様々な改造事業が進んでいます。ダムの改造は、コストや時間の面でメリットがあることは、既に述べましたが、既存施設を運用しながら工事しなければならないという点は難題となります。

 ここからは、そうしたダムの機能を高める典型的な改造事業のいくつかを紹介していきましょう。

 最初に紹介するのは、既存ダムのかさ上げ工事です。既存ダムの堤体の上部に、新たにコンクリートを打設して天端高さを上げ、洪水調節容量を増やす手法です。北海道内で国交省が事業を進めている新桂沢ダムや、新潟県が工事を進める笠堀ダムが、この手法を採用する代表例と言えます。

笠堀ダムの2015年4月14日時点の施工状況。下流側堤体上部に仮設構台を設置して、かさ上げ・増し打ちコンクリートの準備を進めているところ(写真:奥野 慶四郎)

高さ4mでかさ上げ

 かさ上げの場合、現場の地質や地形などの条件を考慮する必要があります。重力式コンクリートダムで、堤体の高さが74.5mの笠堀ダム。この上水道や農業用水、水力発電といった用途に用いる多目的ダムでは、必要な治水機能をダムだけで確保しようとすると堤体を10m以上かさ上げする必要がありました。

 しかし、そこまでのかさ上げはできませんでした。現場の上層の地層がやや弱いうえに、地形上の理由も重なり、堤体重量を大幅に増やす手法の採用が難しかったからです。

 そこで、堤体の高さを少しずつ変えた場合の洪水調節容量などを算定したうえで、高さを4mかさ上げして河道改修といった対策を組み合わせる方法を選択しました。

 同ダムのかさ上げ工事では、堤体の重量を確保するために、下流側の堤体にコンクリートを増し打ちします。堤体の上部から約45mの範囲で、水平方向に厚さ2mのコンクリートを施工するのです。堤体のコンクリート量は約2万m3増え、既存のダムで4mだった天端の幅も2m広がります。

既設の笠堀ダムをかさ上げする工事の概要と洪水調節容量の変化(資料:鹿島・福田組・小柳建設JV)

堤体に穴を開ける

 放流施設を増強して、豪雨時のダム運用の幅を広げて浸水被害を防ぐ動きも出ています。この際の放流施設には二つのパターンがあります。一つは、既存の堤体自体に放流用の施設を設置するケース。もう一つは既存の堤体をかわすように、ダムの上流から下流に向けてバイパストンネルを構築するケースです。

 ダムの堤体に放流管を設置している代表的な現場は、鹿児島県内に建つ鶴田ダムです。同ダムは、1966年に完成した重力式コンクリートダムで、堤体に放流管を設置するための穴を開ける工事を進めてきました。放流管と発電管の合計5本を設けています。穴開け工事は、鹿島・西松建設JVが担当しました。全体の工事は、2017年度に終える予定です。

鶴田ダムの堤体に放流管を増設する工事の概要(資料:国土交通省川内川河川事務所)

 増設する放流管ののみ口は、堤体天端付近の洪水時最高水位の約65m下にあり、堤体内の削孔長さは約60mに及んでいます。増設管としては、日本で一番深くて長いものです。自由断面掘削機を用いて6~6.4m角の矩形断面を、毎時3m3のペースで堤体の下流面から掘り進めました。


 既存堤体に穴を開ける工事なので、増設する管の周辺に発生する引張力が堤体に悪影響を与えるリスクが想定されました。そこで、工事に際してはFEM解析の実施や、事前に試験的に穴を開けるなどして、問題なく施工できることを確かめてきました。

 この工事によって、放流管の位置は既存の位置よりも最大約25m下がります。その結果、鶴田ダムの洪水調節容量は、それまでの約1.3倍の9800万m3まで増加します。ダム改造に要する事業費は711億円となる見通しです。

 この改造によって、ダムの洪水調節容量は毎秒870万m3から毎秒1050万m3に増えます。事業費は51億円で、工事を担うのは鹿島・福田組・小柳建設JVです。14年度に始まった工事は、17年度まで続く見通しとなっています。

削孔とワイヤソーで切り欠く

 既存の堤体に新たな水の排出ルートを設けるという点では、徳島県内で国交省が進める長安口ダムの改造工事も、注目に値します。同ダムでは、運用中の重力式コンクリートダムの堤体を大きく切り欠いて、新たに洪水吐きゲートを設ける工事を進めています。前例のない改造事業は、470億円の事業費を投じて2018年度に完成する予定です。

 ダムの堤体には、スリットを2カ所設けます。幅11.2m、高さ約29mの規模です。ダムの放流能力を高めて予備放流水位を下げ、洪水調節容量を増やします。

 スリット設置部は、高さ1.5mを1段として段階的に切り欠きます。切り欠く部分の下部を複数削孔した後に、ワイヤソーでまずは両端鉛直方向、次に水平方向を切断します。本体から切り分けられた部分は、削孔し、その孔に油圧シリンダーを入れて押し広げて小割にしていきます。これを1.5mの段ごとに進めていくのです。

長安口ダムの改造工事の概要。国土交通省那賀川河川事務所の資料に日経コンストラクションが加筆

長安口ダムの改造工事の現場。2016年3月中旬の段階では、約半分の高さまで切り欠きが進んでいた(写真:大村 拓也)

ロボット活用で潜水作業減

 堤体の構造が頑強なものであれば、堤体自体に手を加えるという選択が可能です。しかし、コンクリートの厚さが限られているなど、構造上、既存の堤体に穴を開けることが難しい場合もあります。

 こうした場合に放流施設を増強する手法として、バイパストンネルの構築という手があります。国交省が愛媛県内で進める鹿野川ダムの改造工事や、同じく国交省が京都府内で進める天ケ瀬ダムの改造工事で採用されている手法が代表例です。

 ドーム型アーチ式コンクリートダムである天ケ瀬ダムの工事では、その構造から、堤体自体に穴を開けることが難しい状況でした。そこで、バイパストンネルの整備によって、ダムの放流能力を毎秒840m3から同1140m3に改善することにしたのです。

 水をためたダムの上流側と下流を結ばなければならず、上流側では大水深での仮設工事などが生じてきます。そのため、工期を短縮したり、安全性を高めたりするうえで、潜水作業の合理化が重要なポイントとなってきます。

 この工事では、バイパストンネル上流側の流入部周辺で、無人で動く施工機械を活用しています。工事を担当する大成建設が、極東建設やアクティオと共同で開発した技術で、機械のアタッチメントを変更すれば、砕岩や土砂のかき集めなど複数の作業をこなせる優れものです。

京都府宇治市郊外に位置する天ケ瀬ダムの改造工事を進めているところ。既存の堤体をかわして下流に水を放水できるバイパストンネルを建設している。ダム湖内に整備する流入部側にある前庭部の施工を進めていた(写真:生田 将人)

天ケ瀬ダムの改造工事の概要(資料:国土交通省)

 ダム湖の底は濁っていて、その視界は20cmほど。そこで、ソナーや超音波カメラを使って湖底の状況を把握できるようにしています。その情報をもとに、台船上のオペレーターが遠隔操作で機械を動かす仕組みです。
動力使わぬ堆砂対策も

 ダムの機能を回復するための、非常にシンプルな方法は、ダムにたまった砂を排出することです。ダムには経年とともに、上流から流れてきた砂がたまっていきます。建設時にこの現象を想定しているのですが、豪雨などの発生によって、想定よりも早い段階で大量の砂がたまってしまうケースが出てきています。

 ダムの堆砂対策を合理的に進める意図で、開発された技術があります。大林組とダムドレ(東京都中央区)は共同で、水位差を用いてダム湖の堆砂を下流に排出する「サイフォンによる移動式吸引工法」を開発しました。国交省中部地方整備局が管理する矢作ダムで進めた実証実験を通して、その有効性を確かめています。

水位差を利用してダム湖の堆砂を排出する設備を用いた実証実験の概要(資料:大林組)

 同工法は、起点と終点を水で満たした管で結んで、両端の水位差を使って水を運ぶサイホンの原理を活用しています。上流貯水池内の堆砂を水ごと吸引し、下流側に排出しようという算段です。

 開発した技術は、次のような手順で使います。最初に、台船に載せた管の吸引部を貯水池の堆砂部に入れます。続いて管の下流側端部をバルブで締め切って、管の途中に設けたサイホン起動設備で管内を真空状態にします。そして管内に水を満たし、水の連続性を確保しながらバルブを開けると、堆砂を含んだ水が吸引されて下流側に移ります。

サイホンの原理を活用した砂の輸送システム。排砂管吐口から排砂している状況(写真:大林組)

 この方法では、砂混じりの水を移動させるための動力がほとんど要りません。簡易な設備で済む分、維持管理が容易になり、ランニングコストを抑制できます。吸引部は、台船の水平移動や台船上のウインチによる上下移動を組み合わせて、任意の場所に配置できる仕組みです。

 国交省中部地方整備局矢作ダム管理所が公募した実証試験では、水位差4.5m、排砂管の直径60cmの条件下で、管内流速毎秒3.7m、土砂の体積濃度2.7%で排砂できました。機械掘削しながら排砂すると、掘削機を使わない場合に比べて管内の土砂の体積濃度が2~3倍高くなることも分かりました。

 国交省では、ダムの再開発技術をインフラ海外輸出のツールの一つに位置付けたい考えです。既に英文パンフレットを作成したり、2国間の防災協働対話などで改造技術のアピールを図ったりしています


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 国交省は、ダムによる被害抑止の金銭的効果が約1兆2000億円に上ったと見込んでいます。日吉ダムの事業費は約1836億円だったので、額面だけを比べれば相当の効果を発揮したといえるでしょう。

2013年に近畿地方を襲った豪雨がもたらした桂川周辺の浸水被害について、1998年に運用を開始した日吉ダムの効果を試算した結果。渡月橋周辺では、ダムの存在によって浸水被害を軽減できたと推定された。国土交通省の資料をもとに日経コンストラクションが作成

 もちろん、効果の算出には様々な仮定も含まれるので、額面通りの効果があったか否かを簡単に評価することはできません。それでも、ダムによって洪水被害が軽減でき、地域の生活や経済活動を守っているという部分は間違いないでしょう。

 豪雨による被害は、ダムだけでは防げません。それでも、ダムが川の流域の安全性を高めている点は、これまで以上に無視できなくなっています。

 このところ、国土交通省はダムの効用を広く伝えようという姿勢を強く打ち出しています。近年の豪雨では、ダムの活用による治水効果を具体的な数字を交えて積極的に公表。その重要性をアピールしています。

 例えば、2015年9月に発生した関東・東北豪雨において、鬼怒川上流に位置する四つのダムの効果を算定し、ダムがなかった場合との被害状況の違いを数字で示した点はその一例です。

時間や費用を改造で抑える

 豪雨などのリスクが高まっているからといって、国内で新たなダムを次々に建設していくことは、費用の面でも時間の面でも現実的ではありません。

 そこで脚光を浴びているのが、既存のダムを改良するという手法です。経年によるインフラの老朽化が社会的な関心を集めるなか、既存施設をリニューアルして将来も役立てていこうという手法は、社会的理解の獲得という点でも有効です。

 国が管理するダムを中心に、現在、様々な改造事業が進んでいます。ダムの改造は、コストや時間の面でメリットがあることは、既に述べましたが、既存施設を運用しながら工事しなければならないという点は難題となります。

 ここからは、そうしたダムの機能を高める典型的な改造事業のいくつかを紹介していきましょう。

 最初に紹介するのは、既存ダムのかさ上げ工事です。既存ダムの堤体の上部に、新たにコンクリートを打設して天端高さを上げ、洪水調節容量を増やす手法です。北海道内で国交省が事業を進めている新桂沢ダムや、新潟県が工事を進める笠堀ダムが、この手法を採用する代表例と言えます。

笠堀ダムの2015年4月14日時点の施工状況。下流側堤体上部に仮設構台を設置して、かさ上げ・増し打ちコンクリートの準備を進めているところ(写真:奥野 慶四郎)

高さ4mでかさ上げ

 かさ上げの場合、現場の地質や地形などの条件を考慮する必要があります。重力式コンクリートダムで、堤体の高さが74.5mの笠堀ダム。この上水道や農業用水、水力発電といった用途に用いる多目的ダムでは、必要な治水機能をダムだけで確保しようとすると堤体を10m以上かさ上げする必要がありました。

 しかし、そこまでのかさ上げはできませんでした。現場の上層の地層がやや弱いうえに、地形上の理由も重なり、堤体重量を大幅に増やす手法の採用が難しかったからです。

 そこで、堤体の高さを少しずつ変えた場合の洪水調節容量などを算定したうえで、高さを4mかさ上げして河道改修といった対策を組み合わせる方法を選択しました。

 同ダムのかさ上げ工事では、堤体の重量を確保するために、下流側の堤体にコンクリートを増し打ちします。堤体の上部から約45mの範囲で、水平方向に厚さ2mのコンクリートを施工するのです。堤体のコンクリート量は約2万m3増え、既存のダムで4mだった天端の幅も2m広がります。

既設の笠堀ダムをかさ上げする工事の概要と洪水調節容量の変化(資料:鹿島・福田組・小柳建設JV)

堤体に穴を開ける

 放流施設を増強して、豪雨時のダム運用の幅を広げて浸水被害を防ぐ動きも出ています。この際の放流施設には二つのパターンがあります。一つは、既存の堤体自体に放流用の施設を設置するケース。もう一つは既存の堤体をかわすように、ダムの上流から下流に向けてバイパストンネルを構築するケースです。

 ダムの堤体に放流管を設置している代表的な現場は、鹿児島県内に建つ鶴田ダムです。同ダムは、1966年に完成した重力式コンクリートダムで、堤体に放流管を設置するための穴を開ける工事を進めてきました。放流管と発電管の合計5本を設けています。穴開け工事は、鹿島・西松建設JVが担当しました。全体の工事は、2017年度に終える予定です。

鶴田ダムの堤体に放流管を増設する工事の概要(資料:国土交通省川内川河川事務所)

 増設する放流管ののみ口は、堤体天端付近の洪水時最高水位の約65m下にあり、堤体内の削孔長さは約60mに及んでいます。増設管としては、日本で一番深くて長いものです。自由断面掘削機を用いて6~6.4m角の矩形断面を、毎時3m3のペースで堤体の下流面から掘り進めました。


 既存堤体に穴を開ける工事なので、増設する管の周辺に発生する引張力が堤体に悪影響を与えるリスクが想定されました。そこで、工事に際してはFEM解析の実施や、事前に試験的に穴を開けるなどして、問題なく施工できることを確かめてきました。

 この工事によって、放流管の位置は既存の位置よりも最大約25m下がります。その結果、鶴田ダムの洪水調節容量は、それまでの約1.3倍の9800万m3まで増加します。ダム改造に要する事業費は711億円となる見通しです。

 この改造によって、ダムの洪水調節容量は毎秒870万m3から毎秒1050万m3に増えます。事業費は51億円で、工事を担うのは鹿島・福田組・小柳建設JVです。14年度に始まった工事は、17年度まで続く見通しとなっています。

削孔とワイヤソーで切り欠く

 既存の堤体に新たな水の排出ルートを設けるという点では、徳島県内で国交省が進める長安口ダムの改造工事も、注目に値します。同ダムでは、運用中の重力式コンクリートダムの堤体を大きく切り欠いて、新たに洪水吐きゲートを設ける工事を進めています。前例のない改造事業は、470億円の事業費を投じて2018年度に完成する予定です。

 ダムの堤体には、スリットを2カ所設けます。幅11.2m、高さ約29mの規模です。ダムの放流能力を高めて予備放流水位を下げ、洪水調節容量を増やします。

 スリット設置部は、高さ1.5mを1段として段階的に切り欠きます。切り欠く部分の下部を複数削孔した後に、ワイヤソーでまずは両端鉛直方向、次に水平方向を切断します。本体から切り分けられた部分は、削孔し、その孔に油圧シリンダーを入れて押し広げて小割にしていきます。これを1.5mの段ごとに進めていくのです。

長安口ダムの改造工事の概要。国土交通省那賀川河川事務所の資料に日経コンストラクションが加筆

長安口ダムの改造工事の現場。2016年3月中旬の段階では、約半分の高さまで切り欠きが進んでいた(写真:大村 拓也)

ロボット活用で潜水作業減

 堤体の構造が頑強なものであれば、堤体自体に手を加えるという選択が可能です。しかし、コンクリートの厚さが限られているなど、構造上、既存の堤体に穴を開けることが難しい場合もあります。

 こうした場合に放流施設を増強する手法として、バイパストンネルの構築という手があります。国交省が愛媛県内で進める鹿野川ダムの改造工事や、同じく国交省が京都府内で進める天ケ瀬ダムの改造工事で採用されている手法が代表例です。

 ドーム型アーチ式コンクリートダムである天ケ瀬ダムの工事では、その構造から、堤体自体に穴を開けることが難しい状況でした。そこで、バイパストンネルの整備によって、ダムの放流能力を毎秒840m3から同1140m3に改善することにしたのです。

 水をためたダムの上流側と下流を結ばなければならず、上流側では大水深での仮設工事などが生じてきます。そのため、工期を短縮したり、安全性を高めたりするうえで、潜水作業の合理化が重要なポイントとなってきます。

 この工事では、バイパストンネル上流側の流入部周辺で、無人で動く施工機械を活用しています。工事を担当する大成建設が、極東建設やアクティオと共同で開発した技術で、機械のアタッチメントを変更すれば、砕岩や土砂のかき集めなど複数の作業をこなせる優れものです。

京都府宇治市郊外に位置する天ケ瀬ダムの改造工事を進めているところ。既存の堤体をかわして下流に水を放水できるバイパストンネルを建設している。ダム湖内に整備する流入部側にある前庭部の施工を進めていた(写真:生田 将人)

天ケ瀬ダムの改造工事の概要(資料:国土交通省)

 ダム湖の底は濁っていて、その視界は20cmほど。そこで、ソナーや超音波カメラを使って湖底の状況を把握できるようにしています。その情報をもとに、台船上のオペレーターが遠隔操作で機械を動かす仕組みです。
動力使わぬ堆砂対策も

 ダムの機能を回復するための、非常にシンプルな方法は、ダムにたまった砂を排出することです。ダムには経年とともに、上流から流れてきた砂がたまっていきます。建設時にこの現象を想定しているのですが、豪雨などの発生によって、想定よりも早い段階で大量の砂がたまってしまうケースが出てきています。

 ダムの堆砂対策を合理的に進める意図で、開発された技術があります。大林組とダムドレ(東京都中央区)は共同で、水位差を用いてダム湖の堆砂を下流に排出する「サイフォンによる移動式吸引工法」を開発しました。国交省中部地方整備局が管理する矢作ダムで進めた実証実験を通して、その有効性を確かめています。

水位差を利用してダム湖の堆砂を排出する設備を用いた実証実験の概要(資料:大林組)

 同工法は、起点と終点を水で満たした管で結んで、両端の水位差を使って水を運ぶサイホンの原理を活用しています。上流貯水池内の堆砂を水ごと吸引し、下流側に排出しようという算段です。

 開発した技術は、次のような手順で使います。最初に、台船に載せた管の吸引部を貯水池の堆砂部に入れます。続いて管の下流側端部をバルブで締め切って、管の途中に設けたサイホン起動設備で管内を真空状態にします。そして管内に水を満たし、水の連続性を確保しながらバルブを開けると、堆砂を含んだ水が吸引されて下流側に移ります。

サイホンの原理を活用した砂の輸送システム。排砂管吐口から排砂している状況(写真:大林組)

 この方法では、砂混じりの水を移動させるための動力がほとんど要りません。簡易な設備で済む分、維持管理が容易になり、ランニングコストを抑制できます。吸引部は、台船の水平移動や台船上のウインチによる上下移動を組み合わせて、任意の場所に配置できる仕組みです。

 国交省中部地方整備局矢作ダム管理所が公募した実証試験では、水位差4.5m、排砂管の直径60cmの条件下で、管内流速毎秒3.7m、土砂の体積濃度2.7%で排砂できました。機械掘削しながら排砂すると、掘削機を使わない場合に比べて管内の土砂の体積濃度が2~3倍高くなることも分かりました。

 国交省では、ダムの再開発技術をインフラ海外輸出のツールの一つに位置付けたい考えです。既に英文パンフレットを作成したり、2国間の防災協働対話などで改造技術のアピールを図ったりしています

【2016/06/22 03:15】 | 各地のダム情報
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