「ダム建設の時代は終わった」by米国内務省開拓局長官ウィリアム・ピアーズ
                 嶋津 暉之

東京都心を貫流する荒川の堤防が決壊すれば、凄まじい被害になることは言うまでもありません。都心は多くの地下鉄が縦横に走っていますので、地下鉄の被害も凄まじいものになります。
この問題を取り上げた東洋経済オンラインの記事をお送りします。
前にもお伝えしたことがありますが、荒川下流部の堤防強化工法として国交省が計画しているのは両岸で合わせて52kmにもなるスーパー堤防の整備です。
しかし、荒川のスーパー堤防は整備が遅々として進まず、今のペースならば1000年経っても、完了しないでしょう。
堤防強化工法はスーパー堤防しかないと主張する国交省が治水対策の本来のあり方を大きく歪めてしまっているのです。


◆地下鉄で3500人が死ぬ「東京水没」という悪夢 荒川決壊の可能性はじわじわ増加している
(東洋経済オンライン / 2016年2月9日)
http://news.infoseek.co.jp/article/toyokeizai_20160209_104085/

東京都と埼玉県の境を流れる荒川をめぐり近年、氾濫の可能性がささやかれている。「荒川」との名前の由来はよく暴れるから。1910年まで何度も大水害を起こしたが、1911〜30年に下流部分に当たる大放水路が新たに築かれて以降、決壊した例はない。

しかし、地球温暖化に伴う異常気象で、杞憂とは言えない状況になりつつある。昨年9月の鬼怒川決壊と同様、上流で想定外の豪雨が起きる恐れが強まっているためだ。氾濫に関する意識と対策の現状を追った。

隅田川との分岐点などで荒川の堤防がついに決壊。地下鉄網を経由して水は東京駅前や銀座にまで達し、日本の経済活動はマヒした—。2012年にYouTubeに公開されたフィクションドキュメンタリー動画「荒川氾濫」では、ショッキングな映像が相次いで出てくる。これはイタズラなどではない。国土交通省の荒川下流河川事務所が公表した啓発用の資料だ。

■カウントダウンは始まっている?

動画では上流である埼玉・秩父地方で3日間に計550ミリを超える雨が降れば堤防決壊の恐れがあり、「その日へのカウントダウンは既に始まっているのかもしれない」としている。一方、鬼怒川の水害では台風の影響により、上流地域で24時間で551ミリと、このレベルをはるかに超える雨が降った。

内閣府などによると、荒川氾濫が起きれば地下鉄の最大17路線97駅が浸水して3500人が死亡。被害総額は33兆円、影響人員はのべ1400万人に達する可能性がある。

国交省水管理・国土保全局の元永秀・大規模地震対策推進室長は「近年では異常気象の影響で、狙い撃ちしたかのように局地的・集中化・激甚化して雨が降るようになっている。鬼怒川の水害でもそうだった。想定を上回る災害は必ずやってくる」と、社会全体で備える必要性を強調する。

確かに冒頭の写真のように、決壊予想地点の河原の幅は広い。大放水路の整備では隅田川(旧荒川下流)との合流地点から河口までの22キロを、20年近くかけて新たに掘り進め、現在の荒川下流を作ったわけだが、まさに「100年の計」だった。場所によっては、東京側の堤防が二段構えになっている。ただ、万が一にも堤防が崩れたら、その後はゼロメートル地帯が広がっているのも事実だ。

河川氾濫は地震などとは違い、上流が豪雨に見舞われてから堤防が決壊するまで、ある程度の時間がある。こうした点から出てきたのが、災害発生前の3〜5日前程度を起点に、関係者が具体的な対策の中身を時間軸に沿って整理しておく「タイムライン(事前防災行動計画)」の発想だ。

米東部で2012年にハリケーン・サンディ襲来に伴いニューヨークで地下鉄への浸水や大停電が発生した際、上陸地だったニュージャージー州がタイムラインを採用していたことで、一定の効果があった。

これを受けて国や荒川下流域の東京都足立区、北区、板橋区は2014年8月に国内初のタイムライン策定を開始。検討会には東京地下鉄(東京メトロ)、NTT東日本、東京電力などのインフラ企業や地域の福祉施設なども参加して昨年5月に試行案を作った。

■「地下鉄ジャック」で呼びかけ

続く9月1日〜15日に東京メトロは施工案の普及啓発のため、「地下鉄ジャック」を行った。銀座線や丸ノ内線など4路線を走る計8編成の電車にポスターを貼ったほか、つくばエクスプレスや埼玉高速鉄道も加えた計197駅に啓発ポスターを掲示した。

「広告主」だった国交省荒川下流河川事務所によると、「鬼怒川の大水害とタイミングが合ったこともあり、SNSではかなりの話題になっていた。他地域の河川事務所からも、問い合わせが数多くあった」。

また、東京メトロ安全・技術部の木暮敏昭・防災担当課長は、国交省のシミュレーション結果に応じて地下鉄網の浸水対策を見直していることを明らかにするとともに、「タイムライン検討会で、自治体と直接顔を合わせて議論できたことは大きい」と語る。その中で浮き彫りになったのは、決壊が予想される場合に地下鉄を止めるタイミングの難しさだった。

「現在のルールでは、避難勧告などが出れば電車を止めて止水措置を行い駅員も退避する。自治体からすれば住民避難のためギリギリまで電車を走らせて欲しいわけだが、われわれは公共交通機関なので水害後の早期復旧に向け、電車を浸水想定から外れた場所に移す必要がある。社員も死なせるわけにはいかない」からだ。

この問題はかなり複雑ではある。国交省の元永室長は「現在、対策の主眼になってきているのは、少なくとも住民の生命を守るとともに、社会経済の壊滅的な被害を回避すること。インフラ復旧に手間取って信用をいったん失ってしまうと、元に戻すのはまず不可能だからだ」と指摘する。

実際、1980年に世界第5位だった神戸港のコンテナ取扱量は95年の阪神大震災によって激減。新興国の港湾に押された面もあるが、2012年には世界で52位までランクを落としている。

木暮課長は「自治体側と対立してはおらず、こちらの事情を理解してくれてはいる。しかし、根本的な解決には大上段からの仕掛けが必要。国が腹をくくって、早い段階から住民の避難や危険地域への立ち入り禁止を進めたり、学校や企業を休みにさせる措置を講じるしかないのでは」と語る。

氾濫の恐れがあるとして経済活動を止めるのは、確かに難しい判断ではある。実際に決壊した場合に人命を守れたら話はある意味簡単だが、災害には「空振り」の例もままあり、そうした際に「損しただけじゃないか」との批判も出かねない。木暮氏はこうした実情を踏まえ、「空振りは容認しましょう」との世論が必要なのでは、と述べている。

■「身の丈BCP」の効用

ただ、企業社会の認識が薄いのも事実だ。東京商工会議所が昨年8月実施した会員企業向けアンケートによると、行政に求める防災対策(複数回答可)のうち、「インフラの耐震化」が67.2%、地震発生時の「帰宅困難者対策」が53.4%に達している。しかし、「水害対策」は16.5%。荒川が流れる城北地域では12.1%に過ぎない。

東商地域振興部の杉崎友則・都市政策担当課長は、この比率について「あまりにも低い。明らかに(問題自体が)知られていないのだと思う」とコメント。周知徹底の必要性を訴える。こうした活動の一環として東商の北支部が小規模企業向けに促している「身の丈BCP(事業継続計画)」策定に応じた会社を訪ねてみた。

足立区にあるナカザは従業員20人。荒川と、蛇行する隅田川に囲まれた「陸の孤島」にある3階建ての町工場だ。精密な金属加工には定評があり、主要顧客の自動車メーカーだけでなく、防衛産業にも部品を納入。ハイブリッド車向け燃料電池の筐体や注射針などの製造実績がある。

坂本英樹ナカザ工場長は「東日本大震災以降、自動車メーカーは災害対応にシビアになっている。東商北支部の指導で作ったBCPを取引先に提示すると評価される」と語る。具体策として、取引データを専用業者に委託して関東数カ所にあるサーバーに分散したり、金型を標準化して自社以外のプレス機にも据え付け可能にして、他の工場に退避した場合でも創業を続けられるようにした。

坂本工場長は「電気供給の停止に備えて自家発電装置導入も考えたが、費用面もあり、そこまではいっていない」と率直に"身の丈"ぶりを語る。その上で「この辺で荒川決壊に危機感を持つ人は正直、少ないかもしれない。川自体から立派な堤防までの距離が非常に長いから。しかし、私が住む埼玉県越谷では3年前に竜巻が発生して近所の家が滅茶苦茶になった。あれ以来、何が起きてもおかしくないとの思いもある」と話した。

■天災は忘れた頃に

取材の後、工場からほど近い荒川の河原まで歩いてみた。冒頭に紹介した決壊予想地点と同様、向こう岸は非常に遠く、霞んで見えるほどだ。どうしても「氾濫なんて杞憂ではないか」という感覚になる。

しかし、この1月には奄美大島で115年ぶりに雪が降った。また、東日本大震災で押し寄せた津波が、過去の災害の教訓に基づいて強化されていた防波堤を、あっさり突破したのも記憶に新しい。「天災は忘れた頃にやってくる」との格言が示すように、人間は自然の脅威に虚を突かれ続けてきた。「ありえない」ということもまた、ありえないのだ。


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内閣府などによると、荒川氾濫が起きれば地下鉄の最大17路線97駅が浸水して3500人が死亡。被害総額は33兆円、影響人員はのべ1400万人に達する可能性がある。

国交省水管理・国土保全局の元永秀・大規模地震対策推進室長は「近年では異常気象の影響で、狙い撃ちしたかのように局地的・集中化・激甚化して雨が降るようになっている。鬼怒川の水害でもそうだった。想定を上回る災害は必ずやってくる」と、社会全体で備える必要性を強調する。

確かに冒頭の写真のように、決壊予想地点の河原の幅は広い。大放水路の整備では隅田川(旧荒川下流)との合流地点から河口までの22キロを、20年近くかけて新たに掘り進め、現在の荒川下流を作ったわけだが、まさに「100年の計」だった。場所によっては、東京側の堤防が二段構えになっている。ただ、万が一にも堤防が崩れたら、その後はゼロメートル地帯が広がっているのも事実だ。

河川氾濫は地震などとは違い、上流が豪雨に見舞われてから堤防が決壊するまで、ある程度の時間がある。こうした点から出てきたのが、災害発生前の3〜5日前程度を起点に、関係者が具体的な対策の中身を時間軸に沿って整理しておく「タイムライン(事前防災行動計画)」の発想だ。

米東部で2012年にハリケーン・サンディ襲来に伴いニューヨークで地下鉄への浸水や大停電が発生した際、上陸地だったニュージャージー州がタイムラインを採用していたことで、一定の効果があった。

これを受けて国や荒川下流域の東京都足立区、北区、板橋区は2014年8月に国内初のタイムライン策定を開始。検討会には東京地下鉄(東京メトロ)、NTT東日本、東京電力などのインフラ企業や地域の福祉施設なども参加して昨年5月に試行案を作った。

■「地下鉄ジャック」で呼びかけ

続く9月1日〜15日に東京メトロは施工案の普及啓発のため、「地下鉄ジャック」を行った。銀座線や丸ノ内線など4路線を走る計8編成の電車にポスターを貼ったほか、つくばエクスプレスや埼玉高速鉄道も加えた計197駅に啓発ポスターを掲示した。

「広告主」だった国交省荒川下流河川事務所によると、「鬼怒川の大水害とタイミングが合ったこともあり、SNSではかなりの話題になっていた。他地域の河川事務所からも、問い合わせが数多くあった」。

また、東京メトロ安全・技術部の木暮敏昭・防災担当課長は、国交省のシミュレーション結果に応じて地下鉄網の浸水対策を見直していることを明らかにするとともに、「タイムライン検討会で、自治体と直接顔を合わせて議論できたことは大きい」と語る。その中で浮き彫りになったのは、決壊が予想される場合に地下鉄を止めるタイミングの難しさだった。

「現在のルールでは、避難勧告などが出れば電車を止めて止水措置を行い駅員も退避する。自治体からすれば住民避難のためギリギリまで電車を走らせて欲しいわけだが、われわれは公共交通機関なので水害後の早期復旧に向け、電車を浸水想定から外れた場所に移す必要がある。社員も死なせるわけにはいかない」からだ。

この問題はかなり複雑ではある。国交省の元永室長は「現在、対策の主眼になってきているのは、少なくとも住民の生命を守るとともに、社会経済の壊滅的な被害を回避すること。インフラ復旧に手間取って信用をいったん失ってしまうと、元に戻すのはまず不可能だからだ」と指摘する。

実際、1980年に世界第5位だった神戸港のコンテナ取扱量は95年の阪神大震災によって激減。新興国の港湾に押された面もあるが、2012年には世界で52位までランクを落としている。

木暮課長は「自治体側と対立してはおらず、こちらの事情を理解してくれてはいる。しかし、根本的な解決には大上段からの仕掛けが必要。国が腹をくくって、早い段階から住民の避難や危険地域への立ち入り禁止を進めたり、学校や企業を休みにさせる措置を講じるしかないのでは」と語る。

氾濫の恐れがあるとして経済活動を止めるのは、確かに難しい判断ではある。実際に決壊した場合に人命を守れたら話はある意味簡単だが、災害には「空振り」の例もままあり、そうした際に「損しただけじゃないか」との批判も出かねない。木暮氏はこうした実情を踏まえ、「空振りは容認しましょう」との世論が必要なのでは、と述べている。

■「身の丈BCP」の効用

ただ、企業社会の認識が薄いのも事実だ。東京商工会議所が昨年8月実施した会員企業向けアンケートによると、行政に求める防災対策(複数回答可)のうち、「インフラの耐震化」が67.2%、地震発生時の「帰宅困難者対策」が53.4%に達している。しかし、「水害対策」は16.5%。荒川が流れる城北地域では12.1%に過ぎない。

東商地域振興部の杉崎友則・都市政策担当課長は、この比率について「あまりにも低い。明らかに(問題自体が)知られていないのだと思う」とコメント。周知徹底の必要性を訴える。こうした活動の一環として東商の北支部が小規模企業向けに促している「身の丈BCP(事業継続計画)」策定に応じた会社を訪ねてみた。

足立区にあるナカザは従業員20人。荒川と、蛇行する隅田川に囲まれた「陸の孤島」にある3階建ての町工場だ。精密な金属加工には定評があり、主要顧客の自動車メーカーだけでなく、防衛産業にも部品を納入。ハイブリッド車向け燃料電池の筐体や注射針などの製造実績がある。

坂本英樹ナカザ工場長は「東日本大震災以降、自動車メーカーは災害対応にシビアになっている。東商北支部の指導で作ったBCPを取引先に提示すると評価される」と語る。具体策として、取引データを専用業者に委託して関東数カ所にあるサーバーに分散したり、金型を標準化して自社以外のプレス機にも据え付け可能にして、他の工場に退避した場合でも創業を続けられるようにした。

坂本工場長は「電気供給の停止に備えて自家発電装置導入も考えたが、費用面もあり、そこまではいっていない」と率直に"身の丈"ぶりを語る。その上で「この辺で荒川決壊に危機感を持つ人は正直、少ないかもしれない。川自体から立派な堤防までの距離が非常に長いから。しかし、私が住む埼玉県越谷では3年前に竜巻が発生して近所の家が滅茶苦茶になった。あれ以来、何が起きてもおかしくないとの思いもある」と話した。

■天災は忘れた頃に

取材の後、工場からほど近い荒川の河原まで歩いてみた。冒頭に紹介した決壊予想地点と同様、向こう岸は非常に遠く、霞んで見えるほどだ。どうしても「氾濫なんて杞憂ではないか」という感覚になる。

しかし、この1月には奄美大島で115年ぶりに雪が降った。また、東日本大震災で押し寄せた津波が、過去の災害の教訓に基づいて強化されていた防波堤を、あっさり突破したのも記憶に新しい。「天災は忘れた頃にやってくる」との格言が示すように、人間は自然の脅威に虚を突かれ続けてきた。「ありえない」ということもまた、ありえないのだ。

【2016/02/10 11:46】 | スーパー堤防
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