「ダム建設の時代は終わった」by米国内務省開拓局長官ウィリアム・ピアーズ
                嶋津 暉之

河川工学の碩学「高橋裕氏」のインタビュー記事です。
今年88歳になる高橋先生は歳を感じさせない発言をされています。

◆そこが聞きたい:鬼怒川決壊の教訓 高橋裕氏
(毎日新聞 2015年10月14日 東京朝刊)
http://mainichi.jp/shimen/news/20151014ddm004070010000c.html

◇「水害大国」忘れるな 東大名誉教授・高橋裕氏

 関東・東北豪雨によって茨城県常総市の鬼怒川の堤防が決壊した大水害から1カ月が経過した。今後起こり得る河川の水害と、どのように向き合えばいいのか。国内外の水害軽減に貢献してきた高橋裕・東京大名誉教授(88)に聞いた。
【聞き手・鳥井真平、写真・内藤絵美】

−−鬼怒川の堤防決壊は、どこに問題があったのでしょうか。

 今回は「線状降水帯」と呼ばれる帯状の積乱雲の集まりが、鬼怒川の流路に沿って長時間とどまり、大量の雨が降りました。鬼怒川が経験した中で最も多い雨が降り、堤防のどこが決壊してもおかしくない状況でした。国土交通省がどこまで危険性を把握していたかは疑問ですが、堤防の基礎部は砂質でした。その土質から見ても構造から見ても堤防としては弱く、あれだけの豪雨が降れば、越水破堤(えっすいはてい)=1=は仕方ないでしょう。「決壊すべくして決壊した」と言うしかありません。

−−被害は広範囲に広がりました。

 川の治水計画では、計画高水流量=2=を算定して堤防の高さなどを決めます。この考え方に基づき、100年に1回、200年に1回降る雨に対応する川を整備しようとするのは悪いことではありませんが、確率計算に頼りすぎです。鬼怒川の過去と現在を比べると、水が流れる場所が変わっています。大きな川の堤防が決壊すると、あふれ出た水は昔の流路に沿って流れます。鬼怒川の東側には小貝(こかい)川があり、二つの川は過去に何度も合流と分離を繰り返し、堤防が決壊したこともあります。今回の水害の浸水域は両河川の間に広がりました。あふれた水は二つの川の昔の流路を通り、非常に広がりやすい状況だったのではないでしょうか。川の過去の変遷を加味して水害対策を考えることが重要です。

−−川の治水はどのように考えるべきなのでしょうか。

 地球温暖化や気候変動で雨の降り方が変化し、これまで大降りがなかった地域でも大量の雨が一気に降る傾向があります。鬼怒川の水害や大きな被害を出した昨年8月の広島市の土砂災害も、こうした雨が原因です。同じような災害は今後、日本のどこでも起こると考えるべきです。そもそも日本は「水害大国」です。残念ながら、日本には戦後、破堤していない川はありません。元々、水害に弱い地域を都市開発してしまった場所も多く、川に近く、人口が多い地域は危険なのです。

 都市部では、破堤しても水が大量にあふれ出るまで時間を稼ぐことができるスーパー堤防を造る方法もありますが、これからの川の治水は、従来のように堤防やダムなどインフラ整備に頼る対策だけではなく、水害の危険がある地域に住宅を建てないようにするなど、都市整備と水害対策をセットに考えることが理想です。行政の縦割りをなくし、都市計画段階から各省庁が横断的に情報共有できる環境も必要です。川のインフラは万能ではなく、限界があることを理解しなければなりません。

−−今回の水害では避難指示のあり方も課題になりました。避難が間に合わなかった住民も多数いました。

 「大きな川の堤防は安全」という「安全神話」が日本中に行き渡っていたのではないでしょうか。鬼怒川近くの住民の中には「まさか決壊するとは思わなかった」と話した人もいたようで、安全と思い込んでいて不意を突かれたのだと思います。「絶対に安全なものはない」という意識を持ち、安全神話を崩すべきです。我々は東日本大震災や東京電力福島第1原発事故で同じことを学んだはずです。東日本大震災後、地震のリスクへの意識は格段に向上しました。地震は揺れを感じることができるため、怖さが分かりやすく、避難訓練も数多く実施されるようになりました。しかし、雨は普段から降っていて、怖さがピンとこない。川のリスクを考える時には、流域全体を「面的」にとらえ、上流に強い雨が降れば、必ず下流に影響が出るということを理解することが重要です。

−−私たちは、鬼怒川決壊の教訓から、水害にどのように備えるべきでしょうか。

 今回の水害は、不幸にも多くの被害を出しました。水害への備えを再整備するきっかけにすべきではないかと考えます。政府は東日本大震災を経験し、国土強靱(きょうじん)化をうたっていますが、災害をハード整備の予算獲得手段にしてはいけません。国や自治体は、川が過去にどの程度の水害を起こしたのか、戦後70年間にどのような災害が起きたのかを住民に周知することが必要です。そのうえで有事に避難行動を促すソフト面の整備に力を入れるべきです。住民は、自分が住む地域の川で起きた災害を知っておくことによって、どこが危険なのか、どこが安全なのかを理解できるでしょう。そのためにも、義務教育段階から身近な川の水害史を学ぶ機会を増やし、「水害はいつでも起きる」ということを国民の常識にすることが求められます。

 ◇聞いて一言

 「水害への危機意識が低い」。もの静かに話す高橋名誉教授の言葉から、東日本大震災で国民の危機意識が上がった地震や津波に比べ、川の水害リスクの周知が進んでいない現状へのもどかしさを感じた。「治水とは施設を造ることだけではない」という指摘も重い。今回の水害を機に、従来想定していた雨量を上回る大雨に対応する河川インフラの再整備はもちろん、「堤防は壊れる」という前提に立った住民の意識改革も加えた新しい水害対策を考える時期に来ていると感じた。

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 ■ことば

 ◇1 越水破堤

 増水した水が堤防を乗り越え、流水が堤防外側の底面を削る「洗掘(せんくつ)」が徐々に進み、最終的に本体を崩壊させる現象。鬼怒川では水が堤防の高さを約20センチ越えてあふれた。国交省は水が堤防内部に浸透する「パイピング」が決壊を助長させた可能性を否定できないとしている。

 ◇2 計画高水流量

 河川整備の基本となる水の流量。想定する最大規模の雨が降ったとして、「川に流れると考えられる水量」から、「ダムや遊水池などを使って下流に流さない分の貯留水量」を差し引いた流量のこと。堤防はこの際の水位よりも余裕を持った高さで設置される。

==============

 ■人物略歴
 ◇たかはし・ゆたか

 1927年静岡市生まれ。河川の流域全体で水害を減らす「総合治水」を提唱し、国内外の災害の軽減に貢献。住民参加を盛り込んだ97年の河川法改正の礎となる。今年の日本国際賞受賞。専門は河川工学


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 地球温暖化や気候変動で雨の降り方が変化し、これまで大降りがなかった地域でも大量の雨が一気に降る傾向があります。鬼怒川の水害や大きな被害を出した昨年8月の広島市の土砂災害も、こうした雨が原因です。同じような災害は今後、日本のどこでも起こると考えるべきです。そもそも日本は「水害大国」です。残念ながら、日本には戦後、破堤していない川はありません。元々、水害に弱い地域を都市開発してしまった場所も多く、川に近く、人口が多い地域は危険なのです。

 都市部では、破堤しても水が大量にあふれ出るまで時間を稼ぐことができるスーパー堤防を造る方法もありますが、これからの川の治水は、従来のように堤防やダムなどインフラ整備に頼る対策だけではなく、水害の危険がある地域に住宅を建てないようにするなど、都市整備と水害対策をセットに考えることが理想です。行政の縦割りをなくし、都市計画段階から各省庁が横断的に情報共有できる環境も必要です。川のインフラは万能ではなく、限界があることを理解しなければなりません。

−−今回の水害では避難指示のあり方も課題になりました。避難が間に合わなかった住民も多数いました。

 「大きな川の堤防は安全」という「安全神話」が日本中に行き渡っていたのではないでしょうか。鬼怒川近くの住民の中には「まさか決壊するとは思わなかった」と話した人もいたようで、安全と思い込んでいて不意を突かれたのだと思います。「絶対に安全なものはない」という意識を持ち、安全神話を崩すべきです。我々は東日本大震災や東京電力福島第1原発事故で同じことを学んだはずです。東日本大震災後、地震のリスクへの意識は格段に向上しました。地震は揺れを感じることができるため、怖さが分かりやすく、避難訓練も数多く実施されるようになりました。しかし、雨は普段から降っていて、怖さがピンとこない。川のリスクを考える時には、流域全体を「面的」にとらえ、上流に強い雨が降れば、必ず下流に影響が出るということを理解することが重要です。

−−私たちは、鬼怒川決壊の教訓から、水害にどのように備えるべきでしょうか。

 今回の水害は、不幸にも多くの被害を出しました。水害への備えを再整備するきっかけにすべきではないかと考えます。政府は東日本大震災を経験し、国土強靱(きょうじん)化をうたっていますが、災害をハード整備の予算獲得手段にしてはいけません。国や自治体は、川が過去にどの程度の水害を起こしたのか、戦後70年間にどのような災害が起きたのかを住民に周知することが必要です。そのうえで有事に避難行動を促すソフト面の整備に力を入れるべきです。住民は、自分が住む地域の川で起きた災害を知っておくことによって、どこが危険なのか、どこが安全なのかを理解できるでしょう。そのためにも、義務教育段階から身近な川の水害史を学ぶ機会を増やし、「水害はいつでも起きる」ということを国民の常識にすることが求められます。

 ◇聞いて一言

 「水害への危機意識が低い」。もの静かに話す高橋名誉教授の言葉から、東日本大震災で国民の危機意識が上がった地震や津波に比べ、川の水害リスクの周知が進んでいない現状へのもどかしさを感じた。「治水とは施設を造ることだけではない」という指摘も重い。今回の水害を機に、従来想定していた雨量を上回る大雨に対応する河川インフラの再整備はもちろん、「堤防は壊れる」という前提に立った住民の意識改革も加えた新しい水害対策を考える時期に来ていると感じた。

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 ■ことば

 ◇1 越水破堤

 増水した水が堤防を乗り越え、流水が堤防外側の底面を削る「洗掘(せんくつ)」が徐々に進み、最終的に本体を崩壊させる現象。鬼怒川では水が堤防の高さを約20センチ越えてあふれた。国交省は水が堤防内部に浸透する「パイピング」が決壊を助長させた可能性を否定できないとしている。

 ◇2 計画高水流量

 河川整備の基本となる水の流量。想定する最大規模の雨が降ったとして、「川に流れると考えられる水量」から、「ダムや遊水池などを使って下流に流さない分の貯留水量」を差し引いた流量のこと。堤防はこの際の水位よりも余裕を持った高さで設置される。

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 ■人物略歴
 ◇たかはし・ゆたか

 1927年静岡市生まれ。河川の流域全体で水害を減らす「総合治水」を提唱し、国内外の災害の軽減に貢献。住民参加を盛り込んだ97年の河川法改正の礎となる。今年の日本国際賞受賞。専門は河川工学

【2015/10/14 19:41】 | 新聞記事から
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