「ダム建設の時代は終わった」by米国内務省開拓局長官ウィリアム・ピアーズ
                嶋津 暉之

蒲島氏は川辺川ダムの白紙撤回を求めたけれども、その後は、前知事が決めた荒瀬ダムの撤去を止めようとしました(結局は、撤去するしか道がないことがわかり、路線変更)。

さらに蒲島氏は、有害無益な県営・路木ダムの建設をゴリ押し、阿蘇の自然を壊す直轄・立野ダム計画に同意しました。そして、球磨川の電源開発・瀬戸石ダムの水利権更新に対してもためらうことなく、同意しました。
荒瀬ダムに続いて瀬戸石ダムの撤去が進められれば、球磨川の自然を大きく甦らせることができたのに、本当に残念です。

川辺川ダムの白紙撤回にしても、蒲島氏が設置した川辺川ダムの有識者会議の答申は委員8人の見解が推進5人、反対3人でしたから、蒲島氏は推進の方向に舵を切るつもりであったのではないでしょうか。

ところが、蒲島氏が川辺川ダムに関する見解を表明する直前に、人吉市長や相良村長の白紙撤回要求がありました。そこで、「世論調査研究の第一人者」である蒲島氏は機を見て、白紙撤回の表明に変えたのだと思います。

蒲島氏が嘉田由紀子・前滋賀県知事のように脱ダムを目指す知事であったならば、熊本県のダムをめぐる状況は好転していたに違いありません。
ところで、川辺川ダム中止の急先鋒であった田中信孝・人吉市長が今年春の市長選で落選しました。


◆(ザ・コラム)修復の政治学 土曜の熊本、日曜の大阪 曽我豪
(朝日新聞2015年6月4日)
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11789779.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_DA3S11789779

7年前の春、東大法学部で世論調査研究の第一人者だった蒲島郁夫教授(68)が突如、熊本県知事選に立候補した。おっとり刀で現地に飛んで街頭演説に立つ蒲島氏をつかまえたのは正直、好奇心からである。
なぜなら、困ったことには、ダブルスコアで優勢との情勢調査が出てしまっていた。都市部の政治意識の高い有権者は強大な権力の誕生に対し必ず牽制(けんせい)的な投票行動に出る(バッファープレーヤー)というのが、世に知られた蒲島理論ではないか。

いやはやこれでは苦戦ですなと冷やかしたのだが、そのとき「強大な権力」候補は少しもあわてず騒がず、「私の理論が間違いだったと言われてもいいので、みなさんはバッファープレーヤーにならないでください。そう訴えているところです」。

さて、その蒲島氏が熊本市である日本選挙学会の総会・研究会で特別講演を行うのだという。来年の3期目出馬あるやなしやはともかく、7年たち、政治学者・蒲島は政治家・蒲島をどう理論化するのであろうか。

しかもそれは期せずして、5月16日の土曜日でもあったのである。


登壇した蒲島氏は原稿を持たない。大スクリーンに次々映し出される図表やチャート図を背に、古今の政治理論を縦横に引用して蒲島県政の正当性の立証を試みる。

曰(いわ)く、知事選は「圧勝」とおカネを使わぬ「理想選挙」の両方が、その後の県政運営に有用であった。アンソニー・ダウンズ理論に基づき、イデオロギー的に「真ん中」を志向するのが当然であり、保守色を薄めるべく自民党の推薦は断った。対決を呼び込む「分裂争点」より「合意争点」を選べとのストークス理論に従い、自身の月給100万円カットを含む財政再建と経済活性化を掲げ、圧勝と理想選挙の両立が可能になったのだ、と。

だが現実政治は一筋縄ではいかない。新たな理論構築が必要となる。

蒲島氏は知事就任直後、県職員への訓示で「熊本県政と言うのはやめよう。蒲島県政と言おう」と呼びかけた。旧来の行政イメージは「指導・規制・管理・継続性・画一性」だ。これを「公平と平等・自由と自治・ボーダーレス・門戸開放」といった理想の行政――ゆるキャラ・くまモンはその体現者である――へと転換していくにはまず、自分たちの呼称から変える。継続性など旧来の記憶を呼び起こす「熊本県政」でなく、リーダーが最終責任を取るのだという意味も込めて「蒲島県政」なのだ……。

だが、それは一本調子の変革だけの政治を意味しない。話が、県政の一大争点だった川辺川ダムの建設見直しに至るや、スクリーンには「決断と修復の政治学」というタイトルが大写しになった。

たしかに自分は就任6カ月で、根回しもしないまま、計画の「白紙撤回」を表明した。その決断は、地元や国土交通省、自民党との対決を呼び込んだ。だからこそ知事再選を挟んでずっと、国と県と流域市町村で「ダムによらない」治水を検討する協議を続け、今年に入ってようやく、実務者レベルで「ダムによらない」治水対策協議会の立ち上げまでこぎつけた。

つまりは、決断の後には、対決の後遺症を癒やすだけの修復の時間と労力が政治には必要なのだ……。この体験に基づき、蒲島氏は四つの成功の条件を挙げた。

(1)スケジューリングと議論の公開性(2)賛否双方の立場を含む協議参加者の包括性(3)決断の合理性(4)いずれの利害関係者からも精神の自由を保ったうえでの決断――。


もちろん、対決構図を極限まで演出して世論を喚起し圧勝をもくろむやり方の理論も一方では成り立つだろう。だが、決断が政治的緊張の極大化を避け得ないのであれば必ず、修復という政治的行為をセットで措定しておくべきだとする新蒲島理論は今後、地方自治の刷新や政権交代を志す次世代の政治リーダー候補や政党に貴重な教訓となるのではなかろうか。

果たせるかな、翌17日の日曜日には、都構想をめぐる大阪住民投票が僅差(きんさ)とはいえ反対多数で終わり、橋下徹大阪市長が政界引退を表明した。大阪と熊本でどこまでが同じで、どこから道を違えたか。もはやこれ以上の説明は必要あるまい。
(編集委員)


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なぜなら、困ったことには、ダブルスコアで優勢との情勢調査が出てしまっていた。都市部の政治意識の高い有権者は強大な権力の誕生に対し必ず牽制(けんせい)的な投票行動に出る(バッファープレーヤー)というのが、世に知られた蒲島理論ではないか。

いやはやこれでは苦戦ですなと冷やかしたのだが、そのとき「強大な権力」候補は少しもあわてず騒がず、「私の理論が間違いだったと言われてもいいので、みなさんはバッファープレーヤーにならないでください。そう訴えているところです」。

さて、その蒲島氏が熊本市である日本選挙学会の総会・研究会で特別講演を行うのだという。来年の3期目出馬あるやなしやはともかく、7年たち、政治学者・蒲島は政治家・蒲島をどう理論化するのであろうか。

しかもそれは期せずして、5月16日の土曜日でもあったのである。


登壇した蒲島氏は原稿を持たない。大スクリーンに次々映し出される図表やチャート図を背に、古今の政治理論を縦横に引用して蒲島県政の正当性の立証を試みる。

曰(いわ)く、知事選は「圧勝」とおカネを使わぬ「理想選挙」の両方が、その後の県政運営に有用であった。アンソニー・ダウンズ理論に基づき、イデオロギー的に「真ん中」を志向するのが当然であり、保守色を薄めるべく自民党の推薦は断った。対決を呼び込む「分裂争点」より「合意争点」を選べとのストークス理論に従い、自身の月給100万円カットを含む財政再建と経済活性化を掲げ、圧勝と理想選挙の両立が可能になったのだ、と。

だが現実政治は一筋縄ではいかない。新たな理論構築が必要となる。

蒲島氏は知事就任直後、県職員への訓示で「熊本県政と言うのはやめよう。蒲島県政と言おう」と呼びかけた。旧来の行政イメージは「指導・規制・管理・継続性・画一性」だ。これを「公平と平等・自由と自治・ボーダーレス・門戸開放」といった理想の行政――ゆるキャラ・くまモンはその体現者である――へと転換していくにはまず、自分たちの呼称から変える。継続性など旧来の記憶を呼び起こす「熊本県政」でなく、リーダーが最終責任を取るのだという意味も込めて「蒲島県政」なのだ……。

だが、それは一本調子の変革だけの政治を意味しない。話が、県政の一大争点だった川辺川ダムの建設見直しに至るや、スクリーンには「決断と修復の政治学」というタイトルが大写しになった。

たしかに自分は就任6カ月で、根回しもしないまま、計画の「白紙撤回」を表明した。その決断は、地元や国土交通省、自民党との対決を呼び込んだ。だからこそ知事再選を挟んでずっと、国と県と流域市町村で「ダムによらない」治水を検討する協議を続け、今年に入ってようやく、実務者レベルで「ダムによらない」治水対策協議会の立ち上げまでこぎつけた。

つまりは、決断の後には、対決の後遺症を癒やすだけの修復の時間と労力が政治には必要なのだ……。この体験に基づき、蒲島氏は四つの成功の条件を挙げた。

(1)スケジューリングと議論の公開性(2)賛否双方の立場を含む協議参加者の包括性(3)決断の合理性(4)いずれの利害関係者からも精神の自由を保ったうえでの決断――。


もちろん、対決構図を極限まで演出して世論を喚起し圧勝をもくろむやり方の理論も一方では成り立つだろう。だが、決断が政治的緊張の極大化を避け得ないのであれば必ず、修復という政治的行為をセットで措定しておくべきだとする新蒲島理論は今後、地方自治の刷新や政権交代を志す次世代の政治リーダー候補や政党に貴重な教訓となるのではなかろうか。

果たせるかな、翌17日の日曜日には、都構想をめぐる大阪住民投票が僅差(きんさ)とはいえ反対多数で終わり、橋下徹大阪市長が政界引退を表明した。大阪と熊本でどこまでが同じで、どこから道を違えたか。もはやこれ以上の説明は必要あるまい。
(編集委員)

【2015/06/04 09:55】 | 新聞記事から
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