「ダム建設の時代は終わった」by米国内務省開拓局長官ウィリアム・ピアーズ
              嶋津 暉之

メコン川のダム建設は流域住民の生活に深刻な影響を与えてきています。

◆大河は誰のもの? ダム建設に揺れるメコン川
(NikkeiBPnet 2015年5月22日)
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/332460/051900012/?ST=ecology&P=1

 メコン川はチベット高原に源を発し、中国、ミャンマー、タイ、ラオス、カンボジア、ベトナムをおよそ4200キロにわたって流れ、南シナ海に注ぐ。東南アジアで最長、アジア全体でも7番目に長い川だが、流域の住民にとって最も重要なのは、ここほど水産資源が豊富な川はほかにないということだ。

 カンボジアとラオスは人口1人当たりの淡水魚の漁獲量が世界で最も多い。流域の村々で食べ物といえば、魚を指すほどだ。メコン川には知られているだけで500種以上の魚が生息し、干ばつのときも大洪水のときも、さらにはカンボジアのポル・ポト政権下での大虐殺時代にも、何百万もの人々の生活を支えてきた。

 一方で、メコン川は長年、ダム開発の好適地としても注目されてきた。1960年代には、米国が下流部に水力発電ダムを建設しようとした。この地域の経済を成長させ、ベトナムで高まる共産主義の波を阻止するのが目的だったが、計画が足踏みしているうちにベトナム戦争が始まった。90年代に入り、メコン川本流に初めてダムを建設したのは、東南アジアの国ではなく、最も上流に位置する中国だった。

ダムができて漁業をあきらめた村人たち

 上流のダムで放流が始まると、村が冠水するおそれがある。中国政府は下流の国々に前もって警告することになっている。だが、タイ北部のメコン川西岸に位置する小さな村バン・パク・イン村の村長プーミー・ブントンの経験では、警告は遅過ぎるか、何も出されないことが多い。

 数百人が暮らすこの村には、コンクリートブロックで造られた住居が点在している。20年前には村長のブントンも、多くの村人と同じく漁業で生計を立てていた。しかし、中国が上流に一つ、また一つとダムを建設し、合計7基が完成するとメコン川は一変。水位が急激に変化するようになり、魚の回遊と産卵に影響を及ぼした。地元の産卵域は守ったものの、村の全員に行き渡るほどの漁獲量は確保できなくなった。

 ここ数年、ブントンをはじめ多くの村人が漁に使っていたボートを売り払い、トウモロコシやタバコ、豆の栽培を始めた。畑仕事は彼らにとっては不慣れな仕事で、収穫がなかなか安定しない。そこに頻発する洪水が追い打ちをかける。

6000万人が影響を受ける「歴史的な人災」

 この村はいわば、メコン川流域の今後の姿を暗示する。中国ではさらに5基のダムの建設が進んでいる。下流のラオスとカンボジアでも、計画中か建設中の大規模なダムが11基あり、これまでダムがなかったメコン川本流の下流部もせき止められることになる。そうなれば魚の繁殖が阻害され、漁獲量が減って、6000万人が影響を受けると推定されている。

 下流部のダムが生む電力は、好況に沸くタイとベトナムの都市部へ主に供給される。タイの環境保護活動家で元国会議員のクライサク・チュンハワンは、下流部のダム計画を「歴史的な人災」と呼ぶ。

 バン・パク・イン村の下流わずか60キロの地点でも、ダム建設が計画されている。このダムができれば、村は上流のダムの放流と下流のダム湖による水位上昇の板挟みになる。「目をつぶって想像してみてください。私たちはどうなると思いますか」。上からも下からも水が押し寄せて一巻の終わりだというように、ブントンは両手をぴしゃりと打ち鳴らした。
(ナショナル ジオグラフィック2015年5月号特集「ダム建設に揺れるメコン川」より)



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 上流のダムで放流が始まると、村が冠水するおそれがある。中国政府は下流の国々に前もって警告することになっている。だが、タイ北部のメコン川西岸に位置する小さな村バン・パク・イン村の村長プーミー・ブントンの経験では、警告は遅過ぎるか、何も出されないことが多い。

 数百人が暮らすこの村には、コンクリートブロックで造られた住居が点在している。20年前には村長のブントンも、多くの村人と同じく漁業で生計を立てていた。しかし、中国が上流に一つ、また一つとダムを建設し、合計7基が完成するとメコン川は一変。水位が急激に変化するようになり、魚の回遊と産卵に影響を及ぼした。地元の産卵域は守ったものの、村の全員に行き渡るほどの漁獲量は確保できなくなった。

 ここ数年、ブントンをはじめ多くの村人が漁に使っていたボートを売り払い、トウモロコシやタバコ、豆の栽培を始めた。畑仕事は彼らにとっては不慣れな仕事で、収穫がなかなか安定しない。そこに頻発する洪水が追い打ちをかける。

6000万人が影響を受ける「歴史的な人災」

 この村はいわば、メコン川流域の今後の姿を暗示する。中国ではさらに5基のダムの建設が進んでいる。下流のラオスとカンボジアでも、計画中か建設中の大規模なダムが11基あり、これまでダムがなかったメコン川本流の下流部もせき止められることになる。そうなれば魚の繁殖が阻害され、漁獲量が減って、6000万人が影響を受けると推定されている。

 下流部のダムが生む電力は、好況に沸くタイとベトナムの都市部へ主に供給される。タイの環境保護活動家で元国会議員のクライサク・チュンハワンは、下流部のダム計画を「歴史的な人災」と呼ぶ。

 バン・パク・イン村の下流わずか60キロの地点でも、ダム建設が計画されている。このダムができれば、村は上流のダムの放流と下流のダム湖による水位上昇の板挟みになる。「目をつぶって想像してみてください。私たちはどうなると思いますか」。上からも下からも水が押し寄せて一巻の終わりだというように、ブントンは両手をぴしゃりと打ち鳴らした。
(ナショナル ジオグラフィック2015年5月号特集「ダム建設に揺れるメコン川」より)


【2015/05/23 02:34】 | Webの記事
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