「ダム建設の時代は終わった」by米国内務省開拓局長官ウィリアム・ピアーズ
◆(あのとき それから)長良川河口堰稼働
(朝日新聞2014年2月24日)
http://digital.asahi.com/articles/ASG2G3QK8G2GUZVL006.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_ASG2G3QK8G2GUZVL006

 ■平成7年(1995年)

 三重県桑名市。銀色に輝く長良川河口堰(かこうぜき)から約200メートル上流の岸辺の空き地。加藤良雄さん(66)や大森恵さん(77)ら、河口堰建設に反対する住民が「第一展示場」と呼ぶプレハブ小屋のあった場所だ。

 加藤さんは1994年暮れ、野坂浩賢建設相を現地に案内した。自民・社会・新党さきがけの連立政権で、社会党出身の野坂さんは堰(せき)反対の署名もし、「凍結」の期待があった。「でも違った。堤防から漏水した所を見せ、『堰ができたら水位が上がって危険』と訴えたが、返事はなかった」。半年後、建設相は河口堰の運用開始を決めた。

 治水・利水目的で堰が計画されたのは68年。88年の本体着工後、生態系や漁業への影響から「清流を守れ」と反対運動が全国に広がった。河口堰は「無駄な公共工事」の象徴になっていた。

 「ダム屋」を自任する建設官僚だった竹村公太郎さん(68)が河口堰担当になったのは89年。「当時の建設省には反対住民と話し合う文化がなかった。説明会を開いて終わり」。それでは問題だと感じていた竹村さんは市民グループと対話を約束したが、省内では「そんな会議に貸す部屋はない」。やっと地下の薄暗い部屋を見つけ、議論の第一歩が始まった。

 取り組んだのは情報公開。「洪水などのデータは非公開だったが、不信感を持つ市民の理解を得るには公開し、同じ土俵に立つしかない。隠さない、全部出す、と決めた」

 利害関係者が一堂に会する「円卓会議」も開かれた。だが、一刻も早く稼働させたい建設省と、中止を目指す市民グループとの溝は埋まらず、議論は平行線。竹村さんを補佐した建設官僚の宮本博司さん(61)は思った。「工事が進んでしまった段階で、対話といっても限界がある。計画段階なら後戻りも修正もできるのに」

 河口堰は95年、計画通り稼働したが、これを機に全国のダムや堰の事業見直しの世論が高まる。それが建設省の「改革派」を動かした。

 95年、河川局開発課長だった青山俊樹さん(69)が「事業継続か中止かを地元の人に議論してもらう仕組みを」と住民代表や専門家によるダム審議委員会の設置を決定。

 後任の開発課長になった竹村さんが、97年、不要不急のダム建設を凍結。同時に、河川局長だった尾田栄章さん(72)のもとで河川法が改正された。生態系に配慮し、住民や専門家の意見を聞くことが盛り込まれた。

 最初の実験となったのが2001年に設置された「淀川水系流域委員会」。滋賀、大阪などにまたがる淀川水系の整備計画をつくる際、住民や専門家による委員会の意見を計画に反映させる。淀川工事の事務所長になった宮本さんは、委員会を尊重した。

 だが03年、委員会が「ダムは原則として建設しない」とする提言を出すと、「自由にやれ」と言っていた本省の空気が変わった。「改革派」の中からも「最初からダム排除では議論にならない」と疑問視する声が。宮本さんは上司から「委員会にタッチさせない」と告げられ、本省に。1年後退職すると、今度は一市民として委員会に参加した。

 結局「ダムより堤防強化」とする委員会と「ダムも堤防も」とする国の対立は解消せず、国はダム整備を盛り込んだ整備計画を決定。委員会は新たな仕組みに衣替えした。

 長良川河口堰稼働から19年。開門調査の動きもあるが賛否は割れる。建設中止が決まった熊本・川辺川ダムでは住民の意見を聞きながら、ダムに頼らない治水が模索される一方、群馬・八ツ場(やんば)ダムは工事再開が決まった。

 河川局長を最後に退職した竹村さんは今、こう言う。「『解』はすぐに出ない。決定権は役所にあるが、市民ととことん話し合えばいい。効率主義に戻ってはいけない」(杉本裕明)

 ■反省からの流れ生かせ 河川行政にかかわってきた東京大名誉教授 高橋裕さん(87)

 長良川河口堰(かこうぜき)建設に反対する市民運動が盛んな頃、土木学会の委員会が国の計画は妥当とする報告書を出したことがあった。河川工学が専門の僕は委員の一人だったが、生態系の専門家はおらず、自然環境への評価がなかったという反省がある。

 その頃、ダムが環境に悪影響を与えることが明らかになりつつあった。建設省も河口堰の反省から「何とかしたい」という気持ちがあったのだろう。僕は審議会の小委員長に指名され、95年に生物の多様な生息・生育環境や健全な水循環を求める答申をまとめた。これが河川法の改正につながった。

 河口堰の反省から生まれたもう一つの成果は流域委員会。先行した淀川水系流域委員会では、第三者委員会が委員を選び、公平な議論ができるように工夫されていた。(ダム否定の)環境派が多すぎ、水没予定地の住民がいないなど問題もあったが、行政が最初から「無理なことは聞けない」という姿勢なら、様々な人たちが長時間議論した意味はないだろう。

 僕は以前から、ダムだけでなく、遊水池はじめ様々な施策で洪水対策を進める「総合治水」を提唱してきた。国も最近、それを掲げるようになった。淀川水系に続き各地で流域委員会が設置されているが、国主導のお飾りにならないように、長良川河口堰と淀川流域委員会の貴重な経験を生かしてほしい。

     ◇

 〈長良川河口堰〉 延長661メートルの可動式の堰(せき)。洪水防止のための浚渫(しゅんせつ)に伴い遡上(そじょう)する海水を止める一方、せき止めた淡水を愛知・三重両県と名古屋市で利用するのが目的。市民側は生態系が変化する、水需要がない、堤防強化で治水可能、と主張し国と論争した。稼働後水需要は当初予測の約6分の1。水質が悪化し生態系も変わった。


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 95年、河川局開発課長だった青山俊樹さん(69)が「事業継続か中止かを地元の人に議論してもらう仕組みを」と住民代表や専門家によるダム審議委員会の設置を決定。

 後任の開発課長になった竹村さんが、97年、不要不急のダム建設を凍結。同時に、河川局長だった尾田栄章さん(72)のもとで河川法が改正された。生態系に配慮し、住民や専門家の意見を聞くことが盛り込まれた。

 最初の実験となったのが2001年に設置された「淀川水系流域委員会」。滋賀、大阪などにまたがる淀川水系の整備計画をつくる際、住民や専門家による委員会の意見を計画に反映させる。淀川工事の事務所長になった宮本さんは、委員会を尊重した。

 だが03年、委員会が「ダムは原則として建設しない」とする提言を出すと、「自由にやれ」と言っていた本省の空気が変わった。「改革派」の中からも「最初からダム排除では議論にならない」と疑問視する声が。宮本さんは上司から「委員会にタッチさせない」と告げられ、本省に。1年後退職すると、今度は一市民として委員会に参加した。

 結局「ダムより堤防強化」とする委員会と「ダムも堤防も」とする国の対立は解消せず、国はダム整備を盛り込んだ整備計画を決定。委員会は新たな仕組みに衣替えした。

 長良川河口堰稼働から19年。開門調査の動きもあるが賛否は割れる。建設中止が決まった熊本・川辺川ダムでは住民の意見を聞きながら、ダムに頼らない治水が模索される一方、群馬・八ツ場(やんば)ダムは工事再開が決まった。

 河川局長を最後に退職した竹村さんは今、こう言う。「『解』はすぐに出ない。決定権は役所にあるが、市民ととことん話し合えばいい。効率主義に戻ってはいけない」(杉本裕明)

 ■反省からの流れ生かせ 河川行政にかかわってきた東京大名誉教授 高橋裕さん(87)

 長良川河口堰(かこうぜき)建設に反対する市民運動が盛んな頃、土木学会の委員会が国の計画は妥当とする報告書を出したことがあった。河川工学が専門の僕は委員の一人だったが、生態系の専門家はおらず、自然環境への評価がなかったという反省がある。

 その頃、ダムが環境に悪影響を与えることが明らかになりつつあった。建設省も河口堰の反省から「何とかしたい」という気持ちがあったのだろう。僕は審議会の小委員長に指名され、95年に生物の多様な生息・生育環境や健全な水循環を求める答申をまとめた。これが河川法の改正につながった。

 河口堰の反省から生まれたもう一つの成果は流域委員会。先行した淀川水系流域委員会では、第三者委員会が委員を選び、公平な議論ができるように工夫されていた。(ダム否定の)環境派が多すぎ、水没予定地の住民がいないなど問題もあったが、行政が最初から「無理なことは聞けない」という姿勢なら、様々な人たちが長時間議論した意味はないだろう。

 僕は以前から、ダムだけでなく、遊水池はじめ様々な施策で洪水対策を進める「総合治水」を提唱してきた。国も最近、それを掲げるようになった。淀川水系に続き各地で流域委員会が設置されているが、国主導のお飾りにならないように、長良川河口堰と淀川流域委員会の貴重な経験を生かしてほしい。

     ◇

 〈長良川河口堰〉 延長661メートルの可動式の堰(せき)。洪水防止のための浚渫(しゅんせつ)に伴い遡上(そじょう)する海水を止める一方、せき止めた淡水を愛知・三重両県と名古屋市で利用するのが目的。市民側は生態系が変化する、水需要がない、堤防強化で治水可能、と主張し国と論争した。稼働後水需要は当初予測の約6分の1。水質が悪化し生態系も変わった。

【2014/02/28 16:48】 | 新聞記事から
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