「ダム建設の時代は終わった」by米国内務省開拓局長官ウィリアム・ピアーズ
◆ダム建設でトルコの遺跡が水没の危機
(ナショナルジオグラフィック 公式日本語サイト  2014年2月24日) 
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140224-00000006-natiogeog-int

ダム建設でトルコの遺跡が水没の危機

トルコのハッサンケイフ(Hasankeyf)は、壮大な生きた博物館だ。新石器時代の洞穴が崖をうがち、アルトゥク朝時代の崩れた橋の上を珍しい鳥が飛びまわり、通りの上には15世紀の黄金色のミナレット(モスクの尖塔)がそびえる。

シリア国境にほど近いトルコ南東部、ティグリス川沿いに1万2000年前から存在するこの居住地は、ほぼすべての主要なメソポタミア文明に支配されてきた。東ローマ帝国(ビザンチン帝国)の教区からアラブの要塞、そしてオスマン帝国の前哨地へと町は移り変わってきたが、それでも羊飼いの歌が峡谷をこだまする風景は何世紀もの間変わっていない。

しかし、現在この土地を治めるトルコ共和国が、ハッサンケイフを変えようとしている。古代から続くこの町を、60メートルの水の下に沈めようというのだ。

ハッサンケイフから97キロ下流にあるイリスという村で、水力発電ダムの建設が進んでいる。2013年2月、トルコの最高行政裁判所は環境影響評価が行われるまで建設を中止するよう命令を下した。

「すると、トルコ政府は規制を変更し、イリス・ダムに対する環境影響評価を不要にしてしまった」と、トルコの自然協会でハッサンケイフ保護運動のコーディネーターを務めるディジレ・トゥバ・クルチ(Dicle Tuba Kilic)氏は述べる。

イリス・ダムは、南東アナトリアプロジェクト(Southeastern Anatolia Project)という地域開発計画の下で建設される最後の大規模ダムで、完成すれば110億立方メートルの貯水容量を有し、トルコの電力の約2%を供給することになる。トルコ政府によると、2014年中には完成の見込みだという。

一方で、イリス・ダムが完成すれば、ティグリス川のシリアとイラクへの流量が減ると予想され、イラク南部の農業に打撃を与えている6年越しの干ばつがさらに悪化する可能性があると、クルチ氏は述べる。さらにトルコ国内でも、ダム上流の史跡300カ所が水没し、ティグリス川沿いの町の住民2万5000人余りが立ち退きを余儀なくされるという。

◆エネルギーと文化の要所

ハッサンケイフ周辺の考古学遺跡はまだ5分の1しか発掘されておらず、残る遺跡の85%は発掘完了前に水没すると地元の考古学者たちはみている。

一方、イリス・ダムの建設を担当する政府当局、トルコ水研究所の所長アフメト・サーチ(Ahmet Saatci)氏は、イリス・ダムにはトルコのエネルギー安全保障の未来がかかっていると主張する。

「トルコはエネルギー源の確保に苦労している。現状ではロシアなど他国から電力を購入しなくてはならないため、自国の再生可能エネルギーを最大限に活用しようとしているわけだ」とサーチ氏は述べる。

◆疑念と懸念

そこで政府は、地元住民のために新たな住宅を建築しており、またハッサンケイフの大規模な記念建造物は移築することを約束している。

しかし“新ハッサンケイフ”となる土地の土壌は乾燥していて岩が多く、現在のハッサンケイフの家々を彩る果樹や実り豊かな庭園とはまったく対照的だ。

それでも職が少ないこの地域では、ダムに反対しているハッサンケイフの住民でさえダム建設の仕事に就いている。ムラート・セビンチ(Murat Sevinc)さんも2010~2012年に建設現場で働いた。

「(この地域が)これほど不景気でなかったら、誰も自分の故郷を水に沈めるような仕事に就こうとはしないだろう。自分の街が、村が、わずか50年先までのプロジェクトのために失われることは望まない」とセビンチさんは言う。

また、セビンチさんはダムを固めるコンクリートの安定性に疑問を抱いており、コンクリートに水を多く混ぜすぎていると述べている。

◆下流国への影響

イリス・ダムをはじめとするトルコのダム計画には、下流にある国々も懸念を抱いている。

例えばイラクでは「毎年、水不足による難民が何千人と生まれている」とイラクの元人権大臣バフティヤール・アミーン(Bakhtiar Amin)氏は述べる。「水不足によって多くの村で人口が激減している」。

トルコは、自国のダムから毎秒500立方メートルの水を下流に放流していると述べているが、アミーン氏によると実際は毎秒200立方メートルほどだという。

イラクとシリアもそれぞれティグリス川とユーフラテス川に大きなダムを建設しているが、トルコのダムは両河川、特にユーフラテス川の水を独占している。1990年、ユーフラテス川に貯水容量270億立方メートルのアタテュルク・ダムが完成した際には、広大な川に水がちょろちょろとしか流れない状態が1カ月続いた。

かつては現在のイラク国土の5分の1を占め、古代シュメールの時代から文明が栄えてきたイラク南部のメソポタミア湿原では現在、ユーフラテス川の流量が毎秒18立方メートルにまで落ち込むことがあるが、この地域に住むマーシュ・アラブ族(マーシュは湿原の意味)の人口維持には毎秒90立方メートルが必要だと、非政府組織ネイチャー・イラクの地域ディレクター、ジャシーム・アル・アサディ(Jassim Al-Asadi)氏は述べる。

イリス・ダムをはじめ、トルコが南東アナトリアプロジェクトで計画しているダムがすべて完成すれば、「もはやイラクに湿原は存在しなくなるだろう」とアル・アサディ氏は述べる。イラク政府は、同プロジェクトによってイラクの耕地67万ヘクタールが干上がると予想している。

既に現在、ティグリス、ユーフラテス川の水位低下によって、ペルシア湾の海水が逆流し、川の塩分濃度が上昇している。住民はもちろんのこと、湿原に生息する野生動物の健康にも悪影響を及ぼすレベルだ。マーシュ・アラブの人々は現在、近隣の町から飲用水をタンクで購入し、船で湿原の居住地まで運んでいる。

河川の水位低下はイラクの湿原周辺の農業にも影響を及ぼしており、都市部への人口流出や、毎年何十件にものぼる衝突を引き起こしている。あるシャイフ(部族の長老)の地域では、水不足を原因とする殺人事件が2012年に推定20件発生したという。

そこへ大規模なイリス・ダムが完成すれば、どれほどの社会的混乱が引き起こされるかわからない。しかしダムは今や完成間近となっており、ティグリス、ユーフラテス川流域に住む人々は不安の目で見守っている。

Julia Harte in Turkey for National Geographic News


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ハッサンケイフから97キロ下流にあるイリスという村で、水力発電ダムの建設が進んでいる。2013年2月、トルコの最高行政裁判所は環境影響評価が行われるまで建設を中止するよう命令を下した。

「すると、トルコ政府は規制を変更し、イリス・ダムに対する環境影響評価を不要にしてしまった」と、トルコの自然協会でハッサンケイフ保護運動のコーディネーターを務めるディジレ・トゥバ・クルチ(Dicle Tuba Kilic)氏は述べる。

イリス・ダムは、南東アナトリアプロジェクト(Southeastern Anatolia Project)という地域開発計画の下で建設される最後の大規模ダムで、完成すれば110億立方メートルの貯水容量を有し、トルコの電力の約2%を供給することになる。トルコ政府によると、2014年中には完成の見込みだという。

一方で、イリス・ダムが完成すれば、ティグリス川のシリアとイラクへの流量が減ると予想され、イラク南部の農業に打撃を与えている6年越しの干ばつがさらに悪化する可能性があると、クルチ氏は述べる。さらにトルコ国内でも、ダム上流の史跡300カ所が水没し、ティグリス川沿いの町の住民2万5000人余りが立ち退きを余儀なくされるという。

◆エネルギーと文化の要所

ハッサンケイフ周辺の考古学遺跡はまだ5分の1しか発掘されておらず、残る遺跡の85%は発掘完了前に水没すると地元の考古学者たちはみている。

一方、イリス・ダムの建設を担当する政府当局、トルコ水研究所の所長アフメト・サーチ(Ahmet Saatci)氏は、イリス・ダムにはトルコのエネルギー安全保障の未来がかかっていると主張する。

「トルコはエネルギー源の確保に苦労している。現状ではロシアなど他国から電力を購入しなくてはならないため、自国の再生可能エネルギーを最大限に活用しようとしているわけだ」とサーチ氏は述べる。

◆疑念と懸念

そこで政府は、地元住民のために新たな住宅を建築しており、またハッサンケイフの大規模な記念建造物は移築することを約束している。

しかし“新ハッサンケイフ”となる土地の土壌は乾燥していて岩が多く、現在のハッサンケイフの家々を彩る果樹や実り豊かな庭園とはまったく対照的だ。

それでも職が少ないこの地域では、ダムに反対しているハッサンケイフの住民でさえダム建設の仕事に就いている。ムラート・セビンチ(Murat Sevinc)さんも2010~2012年に建設現場で働いた。

「(この地域が)これほど不景気でなかったら、誰も自分の故郷を水に沈めるような仕事に就こうとはしないだろう。自分の街が、村が、わずか50年先までのプロジェクトのために失われることは望まない」とセビンチさんは言う。

また、セビンチさんはダムを固めるコンクリートの安定性に疑問を抱いており、コンクリートに水を多く混ぜすぎていると述べている。

◆下流国への影響

イリス・ダムをはじめとするトルコのダム計画には、下流にある国々も懸念を抱いている。

例えばイラクでは「毎年、水不足による難民が何千人と生まれている」とイラクの元人権大臣バフティヤール・アミーン(Bakhtiar Amin)氏は述べる。「水不足によって多くの村で人口が激減している」。

トルコは、自国のダムから毎秒500立方メートルの水を下流に放流していると述べているが、アミーン氏によると実際は毎秒200立方メートルほどだという。

イラクとシリアもそれぞれティグリス川とユーフラテス川に大きなダムを建設しているが、トルコのダムは両河川、特にユーフラテス川の水を独占している。1990年、ユーフラテス川に貯水容量270億立方メートルのアタテュルク・ダムが完成した際には、広大な川に水がちょろちょろとしか流れない状態が1カ月続いた。

かつては現在のイラク国土の5分の1を占め、古代シュメールの時代から文明が栄えてきたイラク南部のメソポタミア湿原では現在、ユーフラテス川の流量が毎秒18立方メートルにまで落ち込むことがあるが、この地域に住むマーシュ・アラブ族(マーシュは湿原の意味)の人口維持には毎秒90立方メートルが必要だと、非政府組織ネイチャー・イラクの地域ディレクター、ジャシーム・アル・アサディ(Jassim Al-Asadi)氏は述べる。

イリス・ダムをはじめ、トルコが南東アナトリアプロジェクトで計画しているダムがすべて完成すれば、「もはやイラクに湿原は存在しなくなるだろう」とアル・アサディ氏は述べる。イラク政府は、同プロジェクトによってイラクの耕地67万ヘクタールが干上がると予想している。

既に現在、ティグリス、ユーフラテス川の水位低下によって、ペルシア湾の海水が逆流し、川の塩分濃度が上昇している。住民はもちろんのこと、湿原に生息する野生動物の健康にも悪影響を及ぼすレベルだ。マーシュ・アラブの人々は現在、近隣の町から飲用水をタンクで購入し、船で湿原の居住地まで運んでいる。

河川の水位低下はイラクの湿原周辺の農業にも影響を及ぼしており、都市部への人口流出や、毎年何十件にものぼる衝突を引き起こしている。あるシャイフ(部族の長老)の地域では、水不足を原因とする殺人事件が2012年に推定20件発生したという。

そこへ大規模なイリス・ダムが完成すれば、どれほどの社会的混乱が引き起こされるかわからない。しかしダムは今や完成間近となっており、ティグリス、ユーフラテス川流域に住む人々は不安の目で見守っている。

Julia Harte in Turkey for National Geographic News

【2014/02/28 16:42】 | Webの記事
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