「ダム建設の時代は終わった」by米国内務省開拓局長官ウィリアム・ピアーズ
             嶋津 暉之

沖大幹東京大学教授のインタビュー記事です。
地球温暖化で渇水や洪水がひどくなっていくからハードな対策を講じなければという話がよく出ますが、沖氏はそのような問題について科学的な視点から正論を述べています。

◆(インタビュー)豪雨の時代に 東京大学生産技術研究所教授・沖大幹さん
(朝日新聞 2013年9月25日) 
http://digital.asahi.com/articles/TKY201309240587.html?ref=comkiji_txt_end_s_kjid_TKY201309240587

豪雨が相次いだ今年の夏。気象庁は「これまでに経験のないような大雨」に警戒を呼びかけ、台風18号では新たに導入された特別警報も出た。一方で、少雨が続き、水不足に悩まされた地域も多い。いま、ニッポンの「水」はいったいどうなっているのか。私たちは「水」のリスクにどう向き合っていけばいいのだろうか。

――今年は気象庁が「これまでに経験したことのない大雨」という表現を使ったり、各地で大雨特別警報が出されたりしました。過去にない豪雨の年だったのでしょうか。
「『これまでに経験したことのない大雨』とは、これまで世界中の誰も経験していないという意味ではなく、その地点では平均すると約50年に一度しか生じないほど稀(まれ)で強い雨を指します。豪雨の日本記録は1982年の長崎豪雨で、1時間に187ミリの雨が観測されましたが、今年はそこまでは降っていません」

――地球温暖化で雨が増えているという話も聞きます。

「今世紀末を想定した推計によると、1年間に降る雨の総量はほぼ変わらないか、やや増える程度です」

――でも、以前に比べ、豪雨の頻度が上がっている気がします。

「利根川や淀川といった大河川が洪水になるような、1日単位の豪雨が増えているかどうかははっきりしていません。ただ、短時間の激しい雨が増えているのは確かです」

――やはり温暖化の影響ですか。

「時間雨量で上位1%にあたる雨の強さと、1日の平均気温の関係を調べると、気温の高い日ほど強い雨が降っていることがわかっています。気温の上昇によって、大気中の水蒸気量が増えて短時間の豪雨が降りやすくなっているのです。ただし、温暖化の影響だけではありません。東京などの大都市圏では100年前に比べ3度近く気温が上がっていますが、そのうち約2度はヒートアイランド現象によるものです」

「また、気温の上昇で短時間の豪雨が増えたというのは、数十年といった長期的な話で、去年に比べて今年は多いというのはまた別の話です。今年に豪雨が多かったのは、日本近海の海面水温が平年より高くて台風が発達しやすく、また気温が高い日が多かった影響でしょう。短時間豪雨が年々増えているという長期的傾向はあるけれど、その中でも多い年と少ない年がある」

――各地で大規模な水害も起きました。

「短時間の豪雨の増加で水害リスクは高まっています。日本の下水道は、基本的に1時間50ミリの雨が降っても氾濫(はんらん)しないように、という目標で設計されています。しかし最近では、1時間に100ミリを超える雨が珍しくありません。降る範囲は狭くても、降った場所ではどうしてもあふれざるをえない」

「9月4日に東海地方で豪雨があり、名古屋市で浸水が起きました。驚きだったのは、繁華街の栄でも浸水したことです。普通、浸水するのは周囲に比べて低い場所ですが、栄は台地とは言わないまでも、相対的に高い地域なんです。そこでも短時間に強い雨が降り続けると、排水が追いつかなくなって一時的に水がたまってしまう。低いところの浸水は、地下河川や貯水池を造るなどの対処がなされていますが、栄のような比較的高い場所での浸水は想定されていませんでした」

■ ■

――今年は各地で水不足も起き、ダムの取水制限も行われました。

「何年かに一度渇水が起こるのはある意味で当たり前です。日本のダムは、数は多いのですが、貯水容量は国民1人あたりにするとそれほど多くない。例年なら毎月雨が降るので、あまりためておく必要がないからです。大河川の洪水対策は100年に一度の大雨でもあふれない設計目標になっていますが、渇水対策の安全度は10年に一度の少雨に備える程度です。ただ、洪水とは違い、渇水はすぐに人の生死にはかかわりにくく、工業用水や農業用水などのやりくりも機能します」

――渇水は長期的には増えているのですか。

「今のところ、渇水が増えたという証拠はありませんが、長期的には干ばつが増える可能性が指摘されています。雨の総量は変わらなくても、豪雨の増加で1回あたりの降水量が増えると、結果としては雨の回数が減ります。降る、降らないの偏りが大きくなり、どうしても渇水が起きやすくなるのです」

「とはいえ、日本ではこれから人口が減ります。今でも工業用水にはそれなりの余裕があるし、水の再生利用も進んでいます。水田の転作が増え、農業用水の潜在的な需要も減っています。供給が若干減っても、それ以上に需要が減るでしょう」

――渇水に対しては、むしろ安全になるはずだと。

「ただ、それは現在の水資源施設を維持できればの話です。人口が減ると、ダムなどの水資源施設の維持・管理にお金をかけられなくなる。将来的には、メンテナンスが容易で効果が高い施設だけを残して、それ以外は使わないようにせざるをえないかもしれません。そうなれば、水資源が足らなくなり、深刻な渇水が起きる危険性が再び高くなります」

――水害や渇水に、社会としてどんな対策をすべきでしょうか。

「技術的には、インフラを維持・拡充して対処することはできるでしょうが、何十年に一度、起きるかどうかわからない災害のために、高い堤防やダムを造る財政的な余裕はもはやないかもしれません

――しかし、国民を災害から守るのは、国の責任ではないですか。

「江戸時代までは、自分たちの村は自分たちで守るという『地先治水』が主体でした。水資源に関しても同じでしょう。明治政府が強固な中央集権国家をつくる過程で、国が水の災害から守ってあげます、水も供給しますとなった。やがてそれが当たり前になり、『国がなんとかしてくれる』と思うようになってしまった。しかし、近年の財政的な制約に加えて、気候変動によって洪水災害の激化が想定されるようになり、施設の整備だけで『国が水の災害を絶対に防ぐ』というのは見果てぬ夢になってしまいました

■ ■

――堤防やダムを造らないならどうすればいいのでしょうか。

「2012年10月にハリケーン『サンディ』が米東海岸に上陸したとき、ニューヨーク市は上陸前から地下鉄や電車、バスをすべて止め、証券取引所も2日間休場にしました。被害額の半分は、経済活動の中止による機会損失だといわれるほどですが、めったにない規模の災害を封じ込めるためにコストをかけるよりは、1日か2日、経済を止めてしまったほうが安上がりだという判断が社会的にあるのでしょう」

「日本は、どんな台風が来ようと、大雨が降ろうと、普段どおりの生活ができるような国土整備を目指してきました。でも、どんな大雨でも学校や会社に行けて、仕事ができるようにインフラを整備する財政的な余裕は残念ながらもうありません。次善の策として、普段の暮らしをいったん止め、コストをかけずに被害を抑えるしかないでしょう。施設ではなく、社会的なバッファー、余裕で自然災害に対処するのです」

――普段の暮らしを止めるといっても、現実には難しそうです。

「台風が来るとわかっていたら、遠出はやめる。大雨でも会社に行こうとするのをやめる。災害休日にしてしまえばいいんです。本当に深刻な被害は100回に1回でしょうから、経済活動をストップさせるのはもったいないように思えるかもしれませんが、いたしかたありません

「もちろん、水のリスクを忘れてはいけませんし、可能な範囲でインフラ整備も進めるべきです。日本は自然災害のリスクが高い国です。先進国で、平均の年間降水量が1700ミリもあるのは日本くらいです。水害が起きれば人が死ぬ恐れがある。でも、それは数多くのリスクの中のひとつです。地震やさまざまな事故のリスクも減らさねばなりませんし、道路や橋など老朽化したインフラの更新、貧困対策や教育の充実にも投資が必要です。安全で豊かな生活を維持するためには、何を、何から、どれくらい守るべきか、総合的に考えていくべきだと思います」



おきたいかん 64年生まれ。地球上の水の循環を総合的に研究する「水文学(すいもんがく)」が専門。著書に「水危機 ほんとうの話」など。


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 ・まさのあつこさんの政策エッセイ
 ・どうする、利根川? どうなる、利根川? どうする、私たち? Ⅱ


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「『これまでに経験したことのない大雨』とは、これまで世界中の誰も経験していないという意味ではなく、その地点では平均すると約50年に一度しか生じないほど稀(まれ)で強い雨を指します。豪雨の日本記録は1982年の長崎豪雨で、1時間に187ミリの雨が観測されましたが、今年はそこまでは降っていません」

――地球温暖化で雨が増えているという話も聞きます。

「今世紀末を想定した推計によると、1年間に降る雨の総量はほぼ変わらないか、やや増える程度です」

――でも、以前に比べ、豪雨の頻度が上がっている気がします。

「利根川や淀川といった大河川が洪水になるような、1日単位の豪雨が増えているかどうかははっきりしていません。ただ、短時間の激しい雨が増えているのは確かです」

――やはり温暖化の影響ですか。

「時間雨量で上位1%にあたる雨の強さと、1日の平均気温の関係を調べると、気温の高い日ほど強い雨が降っていることがわかっています。気温の上昇によって、大気中の水蒸気量が増えて短時間の豪雨が降りやすくなっているのです。ただし、温暖化の影響だけではありません。東京などの大都市圏では100年前に比べ3度近く気温が上がっていますが、そのうち約2度はヒートアイランド現象によるものです」

「また、気温の上昇で短時間の豪雨が増えたというのは、数十年といった長期的な話で、去年に比べて今年は多いというのはまた別の話です。今年に豪雨が多かったのは、日本近海の海面水温が平年より高くて台風が発達しやすく、また気温が高い日が多かった影響でしょう。短時間豪雨が年々増えているという長期的傾向はあるけれど、その中でも多い年と少ない年がある」

――各地で大規模な水害も起きました。

「短時間の豪雨の増加で水害リスクは高まっています。日本の下水道は、基本的に1時間50ミリの雨が降っても氾濫(はんらん)しないように、という目標で設計されています。しかし最近では、1時間に100ミリを超える雨が珍しくありません。降る範囲は狭くても、降った場所ではどうしてもあふれざるをえない」

「9月4日に東海地方で豪雨があり、名古屋市で浸水が起きました。驚きだったのは、繁華街の栄でも浸水したことです。普通、浸水するのは周囲に比べて低い場所ですが、栄は台地とは言わないまでも、相対的に高い地域なんです。そこでも短時間に強い雨が降り続けると、排水が追いつかなくなって一時的に水がたまってしまう。低いところの浸水は、地下河川や貯水池を造るなどの対処がなされていますが、栄のような比較的高い場所での浸水は想定されていませんでした」

■ ■

――今年は各地で水不足も起き、ダムの取水制限も行われました。

「何年かに一度渇水が起こるのはある意味で当たり前です。日本のダムは、数は多いのですが、貯水容量は国民1人あたりにするとそれほど多くない。例年なら毎月雨が降るので、あまりためておく必要がないからです。大河川の洪水対策は100年に一度の大雨でもあふれない設計目標になっていますが、渇水対策の安全度は10年に一度の少雨に備える程度です。ただ、洪水とは違い、渇水はすぐに人の生死にはかかわりにくく、工業用水や農業用水などのやりくりも機能します」

――渇水は長期的には増えているのですか。

「今のところ、渇水が増えたという証拠はありませんが、長期的には干ばつが増える可能性が指摘されています。雨の総量は変わらなくても、豪雨の増加で1回あたりの降水量が増えると、結果としては雨の回数が減ります。降る、降らないの偏りが大きくなり、どうしても渇水が起きやすくなるのです」

「とはいえ、日本ではこれから人口が減ります。今でも工業用水にはそれなりの余裕があるし、水の再生利用も進んでいます。水田の転作が増え、農業用水の潜在的な需要も減っています。供給が若干減っても、それ以上に需要が減るでしょう」

――渇水に対しては、むしろ安全になるはずだと。

「ただ、それは現在の水資源施設を維持できればの話です。人口が減ると、ダムなどの水資源施設の維持・管理にお金をかけられなくなる。将来的には、メンテナンスが容易で効果が高い施設だけを残して、それ以外は使わないようにせざるをえないかもしれません。そうなれば、水資源が足らなくなり、深刻な渇水が起きる危険性が再び高くなります」

――水害や渇水に、社会としてどんな対策をすべきでしょうか。

「技術的には、インフラを維持・拡充して対処することはできるでしょうが、何十年に一度、起きるかどうかわからない災害のために、高い堤防やダムを造る財政的な余裕はもはやないかもしれません

――しかし、国民を災害から守るのは、国の責任ではないですか。

「江戸時代までは、自分たちの村は自分たちで守るという『地先治水』が主体でした。水資源に関しても同じでしょう。明治政府が強固な中央集権国家をつくる過程で、国が水の災害から守ってあげます、水も供給しますとなった。やがてそれが当たり前になり、『国がなんとかしてくれる』と思うようになってしまった。しかし、近年の財政的な制約に加えて、気候変動によって洪水災害の激化が想定されるようになり、施設の整備だけで『国が水の災害を絶対に防ぐ』というのは見果てぬ夢になってしまいました

■ ■

――堤防やダムを造らないならどうすればいいのでしょうか。

「2012年10月にハリケーン『サンディ』が米東海岸に上陸したとき、ニューヨーク市は上陸前から地下鉄や電車、バスをすべて止め、証券取引所も2日間休場にしました。被害額の半分は、経済活動の中止による機会損失だといわれるほどですが、めったにない規模の災害を封じ込めるためにコストをかけるよりは、1日か2日、経済を止めてしまったほうが安上がりだという判断が社会的にあるのでしょう」

「日本は、どんな台風が来ようと、大雨が降ろうと、普段どおりの生活ができるような国土整備を目指してきました。でも、どんな大雨でも学校や会社に行けて、仕事ができるようにインフラを整備する財政的な余裕は残念ながらもうありません。次善の策として、普段の暮らしをいったん止め、コストをかけずに被害を抑えるしかないでしょう。施設ではなく、社会的なバッファー、余裕で自然災害に対処するのです」

――普段の暮らしを止めるといっても、現実には難しそうです。

「台風が来るとわかっていたら、遠出はやめる。大雨でも会社に行こうとするのをやめる。災害休日にしてしまえばいいんです。本当に深刻な被害は100回に1回でしょうから、経済活動をストップさせるのはもったいないように思えるかもしれませんが、いたしかたありません

「もちろん、水のリスクを忘れてはいけませんし、可能な範囲でインフラ整備も進めるべきです。日本は自然災害のリスクが高い国です。先進国で、平均の年間降水量が1700ミリもあるのは日本くらいです。水害が起きれば人が死ぬ恐れがある。でも、それは数多くのリスクの中のひとつです。地震やさまざまな事故のリスクも減らさねばなりませんし、道路や橋など老朽化したインフラの更新、貧困対策や教育の充実にも投資が必要です。安全で豊かな生活を維持するためには、何を、何から、どれくらい守るべきか、総合的に考えていくべきだと思います」



おきたいかん 64年生まれ。地球上の水の循環を総合的に研究する「水文学(すいもんがく)」が専門。著書に「水危機 ほんとうの話」など。


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【2013/09/28 09:34】 | Webの記事
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